研究課題/領域番号 |
20KK0181
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 和民 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (60549591)
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研究分担者 |
渡邉 俊樹 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 教授 (30182934)
佐藤 知雄 聖マリアンナ医科大学, 医学研究科, 准教授 (30387063)
鴨居 功樹 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (40451942)
宇都宮 與 鹿児島大学, 医歯学総合研究科, その他 (40511663) [辞退]
田部 亜季 国立感染症研究所, エイズ研究センター, 研究員 (60786367)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | HTLV-1a / 日本 / HTLV-1c / オーストラリア / ATL / HAM / HU / 気管支拡張症 |
研究実績の概要 |
2022年度はDr. Einsiedelとのオンラインミーティングを含め数回の会議を開催し、日豪のHTLV-1感染症の診療実体について情報交換を行った。その結果、日本では感染者フォローアップと関連疾患患者の治療体制が整備されているのに対し、オーストラリアでは未だ感染者の分布・実数が把握されておらず、関連疾患を発症しても拠点病院を受診するフォローアップ体制が無いため、現段階では当初計画した日豪間でのHTLV-1感染者と患者の分子病態の対等な比較は難しいことが分かった。また将来的に長期的に日豪でHTLV-1感染症の共同研究を展開していくためには、オーストラリアにおけるコホート研究体制の構築が必要である認識を共有した。Dr. Einsiedelは近くHTLV-1診療科開設する準備を進めている。そこで我々は効率的なHTLV-1感染者の発見と受診率の向上のため、昨年日本で開発・承認されたHTLV-1/2抗体迅速検査キット(富士レビオ社製)のオーストラリアでの使用・普及に必要な手続きを開始した。手続きが完了ししだい、アリススプリングス病院でパイロット試験を実施する。 HTLV-1a/cのウイルス性状比較解析では、感染性HTLV-1cウイルス粒子発現プラスミドの構築を完了し、HTLV-1cウイルス粒子産生を試みた。同時に既存の系を用いてHTLV-1aを産生し、ヒトPBMCへの感染実験を行った。HTLV-1a/c感染PBMCを免疫不全マウスへ移植し、in vivoイメージングや血液細胞の分子生理学的解析により、HTLV-1a/c感染細胞のin vivoでの動態解析を行った。その結果どちらの感染細胞もマウス体内で長期間(1ヶ月以上)生存し、感染により感染細胞のCADM1発現が誘導される可能性が示された。今後は感染や移植の条件を最適化し、生体内での性状比較解析をさらに進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
国内外でのコロナウイルスの感染状況を始め様々な要因により、いまだDr. Einsiedelとの対面での打ち合わせができていない点は、当初の計画よりやや遅れていると考えられる。一方で、オンライン会議やメール等の手段を利用して、これまで日本では実態把握が難しかったオーストラリアでのHTLV-1感染症に対する取り組みの度合いが分かったこと、それによって実際に現地に行く前にオーストラリアの現状に合わせた研究計画への軌道修正が必要であることが判明したことは、時間や研究費の節約の上でも有効だったと考える。 もともと日本での実施を計画していた、分子生物学的手法を用いたHTLV-1a/cのウイルス性状比較解析については、最も難しいと予想していたHTLV-1cの感染性ウイルス粒子産生プラスミドの構築を完了し、preliminaryながらin vitro、in vivoでの感染実験を行うことができたため、概ね計画のとおり進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
(1)日豪のHTLV-1関連疾患の病態比較について:日本製のHTLV-1/2抗体迅速検査キットのオーストラリアでの使用のための手続きを完了する。本キットの開発を行った国立感染症研究所・次世代生物学的製剤研究センター・倉光 球先生との共同研究体制を整える。今年中にはキット(2~3個)をオーストラリアに送り、Dr. Einsiedelにアリススプリングス病院での診療の中で試用して頂き、HTLV-1c感染者への適用可否や精度について検討をする予定である。またオーストラリアでのHTLV-1関連疾患死は、主に気管支拡張症などの肺疾患を原因としている。日本ではHTLV-1関連疾患としての呼吸器不全という認識が薄く、その関連について詳細に検討されていない。そこで日本でのHTLV-1感染者と肺疾患の発症の関連について、国内でアーカイブされた情報やデータを再解析する。 (2)HTLV-1a/cのウイルス性状比較解析:これまでHTLV-1aのin vivo感染実験は国内外で行われてきたが、primary PBMSに感染させる場合には、T細胞の活性化や増殖刺激の導入が必要とされてきた。そのため、それらの感染細胞をマウスに移植すると、感染細胞の異常増殖や多重感染など、リアルワールドの感染細胞とは全くことなる形質を呈することが問題であった。今回HTLV-1a/cプラスミドから産生したcell freeウイルス粒子を、無刺激のPBMCに感染させマウス腹腔内に移植したところ、感染細胞は現実的な状態(非増殖性の潜伏感染状態)を維持しつつ、生体内で長期間にわたって生き続けるとことが分かった。そこで今年度は、無刺激のPBCMに対してより高効率に感染を成立できるウイルス:細胞比や、マウスへの移植細胞数と移植方法(腹腔、肝臓内、経静脈)を検討し、感染細胞の経時的なサンプリングと解析を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2022年度中も引き続き国内外のコロナウイルスの感染状況が不安定だったため、日本側研究者の渡豪が行われなかったため。 今年度は必要に応じて研究代表者または研究分担者が渡豪し、アリススプリングス病院での診療状況の視察にかかる渡航滞在費として使用予定である。また、日豪での実験、解析に必要な試薬・消耗品の購入にも使用予定である。
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