研究課題/領域番号 |
20KK0186
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
村川 泰裕 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (50765469)
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研究分担者 |
山田 真太郎 京都大学, 医学研究科, 助教 (20837869)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2023-03-31
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キーワード | エンハンサー / 発がん / ヒトゲノム科学 / 乳がん |
研究実績の概要 |
本課題では、乳がんや精巣腫瘍のエンハンサー解析をNYメモリアルスローンケタリング癌研究病院(MSKCC)のScott Keeney教授やEkta Khurana助教授らと国際共同研究し、「腫瘍エンハンサー」の解析を通じて、発がんの発生および維持に関する根本的メカニズムの解明を目指している。ヒト遺伝子の発現はエンハンサー配列が制御する。遺伝子の発現は、転写制御配列(エンハンサー)が転写開始点(プロモーター)を活性化して開始される。エンハンサーは、100 - 500塩基であり、1つの遺伝子に対し複数個存在する。c-MYC発癌遺伝子は30以上のエンハンサーがある。大多数の未知エンハンサーが存在すると推定されており、ヒトゲノム学のホット領域である。活性化されたエンハンサーは、エンハンサー部位から合成されるeRNAを検出することで同定できる。活性化されたエストロゲン受容体は転写因子として機能してエンハンサー配列に結合し遺伝子発現を制御する。申請者は、世界最高感度で機能的なエンハンサーを検出する手法を開発した (Nature Genet. 2019、研究代表者が責任著者) 。研究実績として、乳がん発症の必須因子であるエストロゲンに依存的に活性化する約10,000箇所ものエンハンサーを同定したり、精巣に発現するエンハンサーの解析を進めた。またこれらのゲノム配列情報をもとにして、ヒト乳癌のエストロゲン依存的エンハンサーに存在するDNA変異を解析した。さらに、山田博士が乳癌モデル作成を完成させ、機能的な解析実験を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
乳癌において、エストロゲン依存的エンハンサーに存在する変異を解析した。エストロゲンによる増殖刺激は、乳癌発生に必須の因子である。エストロゲンにより活性化された受容体は転写因子として、エンハンサーを活性化する。エストロゲン依存的に活性化される機能的なエンハンサーは、NET-CAGEにより効率的に同定できる。申請者は分担研究者と共同し、そのエンハンサーを約10,000箇所同定した。さらに、乳癌のエストロゲン依存的エンハンサーに存在するドライバー変異を同定することを目標として、乳癌の全ゲノム配列情報をMSKCCのKhurana助教授を通じて恒常的に収集できる国際共同研究体制を構築し、がんゲノム変異とエンハンサー配列情報を統合的に解析した。また得られた結果を固体の系において、詳細に機能的な評価を実施するために、ATMキナーゼ欠損マウスの解析を進めている。また、精子組織で活性化するエンハンサーを網羅的に同定しており、ヒト精巣腫瘍の発症メカニズムや腫瘍発生の根源的なメカニズム、腫瘍の分子特性の詳細な解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
NET-CAGE法により同定されたヒト乳がん関連エンハンサー配列をもとにして、乳癌のエストロゲン依存的エンハンサーに存在するドライバー変異を同定すること、さらにはその機能解析実験により、腫瘍発生および維持の分子メカニズムの解明を今後も推進していく。そのために、MSKCCのKeeney教授との国際共同研究により、ATMホモ欠損マウス(2種類の遺伝的バックグランド)を用いてマウス乳腺の解析を行う。これにより、乳癌の発症メカニズムに関する知見を生み出すことを目標にする。乳がんの原因遺伝子であるBRCA1, BRCA2, ATM遺伝子の片アレルにドライバー変異があると有意に高まる。乳腺上皮のこれらの遺伝子の変異がヘテロ接合体からホモ接合体に変換 (LOH) されると癌化起こる。LOHが極稀にしか起こらない事実を考えると、ホモ接合体になった乳腺上皮はその癌化が一気に進むと考えられる。しかし、なぜ「癌化が一気に進む」のか不明であった。この学術的問いに関する解を提案することを最終目標とする。また、精巣腫瘍に関しても、精巣の発癌では、他の臓器の発癌に比べnoncoding RNA(ncRNA)が重要な働きをする(Lancet. 2016, PMID: 26651223)。本研究では、ncRNA の1つ、eRNAのなかで精巣発癌に関与するものを同定することを最終目標にする。今後の研究推進により、がん生物学を深化させる。
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次年度使用額が生じた理由 |
NET-CAGE解析の一部は実験の都合により次年度に行うことになったため。
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