研究課題/領域番号 |
20KK0195
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
山口 敏弘 東京大学, 医学部附属病院, 届出研究員 (50802394)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | ドパミン受容体 / 放射性トレーサー / PET / D1R |
研究実績の概要 |
研究者は先行研究においてドパミン受容体(D1R)が種や病態を超えて心不全時の致死的不整脈に関与していることを明らかとしている。本研究では、中枢神経領域における D1R を標的とした臨床研究が既になされている米国の Yale 大学 PET Center と共同することで、心臓 D1R を標的とした重症心不全の新規治療法の臨床応用を加速化することを狙う。具体的には、中枢神経の D1R 評価目的に作成された D1R トレーサーの作成プロトコルを参考とし、共同研究施設内での心臓評価用の D1R トレーサーの作成を目指す。トレーサーの作成にあたっては、検証系として先行研究で樹立した心臓特異的 D1R 強制発現マウスの使用が最適と考えられるため、この卵化及び共同研究先での個体復元・繁殖に向けての作業を進める。2020年度下半期においては、上記の心臓特異的 D1R 強制発現マウスの輸送に向けた卵化作業ならびに改めて共同研究先の協力者と複数回のオンラインミーティングを行い、実験計画遂行のためのすり合わせを行った。トレーサーの作成にあたっては引き続いての心臓特異的 D1R 強制発現マウス検証実験が連動する必要が出てくるため、現在の新型コロナウイルス感染症の状況を注視しつつ、実験開始の時期を策定することが肝要と考えられた。そこで、まず2020年度はトレーサーの作成及び検証実験の準備段階として、研究代表者の研究施設において心臓特異的 D1R 強制発現マウスの D1R 蛋白発現量の追加評価を行うことで、検証実験の見通しを図りつつ、これと連動して米国内でのトレーサー作成の準備を進めることとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画の作成段階で一定程度予期されたことではあるものの、新型コロナウイルス感染症の動向は米国内においても依然として鎮静化しておらず、共同研究先の機関においても実験を含めた行動制限があるとともに、日米間においても研究者の往来は制限されている状況にある。こうした背景も踏まえ、今回改めて本研究計画の遂行に関して共同研究先の研究協力者と打ち合わせを複数回行った。米国内においては既に臨床応用された D1R のトレーサーの作成及び評価系の樹立実績があるが、本研究では心臓における評価系の樹立を目指すこととなる。心臓は、脳組織と異なり拍動臓器であること、及び脳脊髄関門外の臓器で代謝排泄経路が全く異なること、の二点が本研究の評価系の樹立にあたっての要点となる。先行研究においては、 D1R の機能性こそ示したものの、発現量に関しては RNA レベルでの評価がメインであった。 現在の新型コロナウイルス感染症の状況も鑑み、 D1R を用いた心臓評価系の樹立にあたり、まずは評価系の樹立難度を図るための前評価として蛋白レベルでの定量を行うこととした。また、米国内の感染症の状況によっては、さらに機能性 D1R 及びトレーサーの off target となる候補受容体の発現量の比較定量評価も予備検討として行うことを検討するものとする。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では先行研究の結果をもとに、共同研究先の Yale 大学 PET Center において、 D1R トレーサーの作成を行った上で、ヒト臨床応用の前段階として、マウスの心臓を用いた In vivo での心臓評画像価系の樹立することを第一の目標とする。本目標が達成できた後には、本研究のマウスで樹立した評価系と過去に中枢神経をターゲットして樹立されたヒトへの投与/評価系の既報の結果をもとに、ヒト心臓評価のためのプロトコル作成を目指すとともに、倫理申請さらには臨床試験へと進めていくことを狙う。本研究課題は、本邦の単独研究では多くの時間を要する開発ステップの効率化・簡素化を図ることができるものと考える。本研究で得られた画像評価は、対象患者の過去の臨床情報や過去の他の検査情報と複合的に解析することによって、心臓ドパミン受容体に着目したこれまでに類を見ない心不全領域における新たな診断基準・リスク評価系の構築が可能になるものと考える。本研究課題の最終的な成果物は D1R の発現評価に基づく次世代型の Tailor-made medicineをも見据えた本邦発の革新的治療法の開発に繋げるものと考える。 新型コロナウイルス感染症の情勢は引き続き予測困難な状況にあるが、研究協力者とのオンライン会議を利用しつつ、本邦でも遂行可能な予備実験に関しては本邦で予め行っておくことで対処することとする。また、渡航研究期間に関しては当初2022年度に半年から1年程度を見込んでいたが、先方の研究機関の受け入れ状況も鑑み柔軟に対応していくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度において行った予備検討においては、先行研究での残試薬等の運用によって賄うことが可能であった。本研究はYale大学でのトレーサー開発ならびにその検証実験、海外滞在費が主要な費用となるため、次年度使用額についてはそちらに充当することとする。
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