研究課題
筋量減少は様々な疾患の基盤となり、筋量増加は運動機能や代謝改善のみならず、様々な健康障害に対し予防的効果をもたらず。よって筋量の制御機構に対する理解は多彩な健康障害の治療・予防薬の開発に繋がる。本研究では運動による筋量増加と不動化による筋量減少のメカニズムについて検討することを目的とした。前年までの検討によりギプス固定や不動化による筋萎縮に対して抵抗性を示すことが明らかになった骨格筋特異的KLF15欠損マウスを用い、KLF15の下流で機能する分子を探索した。各種の液性因子を中心に検討した結果、野生型マウスでは不動化によって骨格筋のIL-6の遺伝子発現が増強し、骨格筋特異的KLF15欠損マウスではIL-6発現増強が抑制されることが明らかとなった。KLF15はIL6遺伝子のプロモーター領域に直接結合し、KLF15の培養筋細胞への過剰発現によりIL6発現は増加した。IL-6の中和抗体は不動化性筋萎縮を抑制し、IL6欠損マウスは不動化性筋萎縮に対して抵抗性を示すことも明らかとなった。すなわち、IL-6はKLF15の下流で機能し、筋萎縮のシグナルを伝達する因子であると考えられた。協働筋切除による筋肥大誘導系においては、筋肥大と平行してSerca2、sarcolipinなどのCa2+シグナル関連遺伝子の発現が増強することが明らかとなった。骨格筋特異的PDK1欠損マウスでは協働筋切除による筋肥大が抑制されたが、Ca2+シグナル関連の遺伝子発現の抑制はなかった。以上から、運動負荷による筋肥大にはPDK1経路と独立してCa2+シグナルが関与すると考えられ、この現象に関わる分子を野生型及び各種遺伝子改変マウスの骨格筋試料、我々が収集したヒト筋生検試料、Juleen Zirath博士のヒト筋生検試料等を用いて探索し、複数の候補遺伝子を得てその機能解析を開始した。
2: おおむね順調に進展している
KLF15の下で機能する分子としてIL6を同定し、抗体を用いた薬理学実験や遺伝子改変動物を用いた実験などで、その薬剤標的としての有用性を明らかにするなど、不動化性筋萎縮の理解とその治療薬開発に資する重要な知見を得ている。また運動による筋量増加のメカニズムの解析においても、従来、筋量制御への関与が想定されていなかった複数のCaシグナル関連分子の関与の可能性を見出すなど、新規な科学的知見を得ている。
現在までのマウスを用いた解析によって得られた機能性分子の候補についてJuleen Zierath博士との国際共同研究を活用し、ヒトでの生理的・病理的意義の検証を行う。また培養細胞を用いた実験、筋量増加、あるいは、筋萎縮モデルマウスを用いてそれらの生理的、病理的意義にについて解析を行う。なお、当該年度は新型コロナウイルス感染症のため、スウェーデンのZierath博士の研究室に直接出向いて共同研究を行うことができず、メールやウェブ会議などを活用して共同研究を継続したが、今後、渡航に関する制限が解除されれば現地に赴いて共同研究をさらに加速させる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件) 備考 (1件)
J Clin Invest.
巻: 132 ページ: 1-13
10.1172/JCI154611.
Sci Rep
巻: 11 ページ: 3447
10.1038/s41598-021-83098-z
https://www.kobe-u.ac.jp/research_at_kobe/NEWS/news/2022_03_15_01.html