研究課題/領域番号 |
20KK0211
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
片桐 綾乃 大阪大学, 歯学研究科, 講師 (40731899)
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研究分担者 |
上野 祥夫 大阪大学, 歯学部附属病院, 医員 (50880118)
加藤 隆史 大阪大学, 歯学研究科, 教授 (50367520)
岩田 幸一 日本大学, 歯学部, 特任教授 (60160115)
毛利 育子 大阪大学, 連合小児発達学研究科, 准教授 (70399351)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2025-03-31
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キーワード | 口腔顔面痛 / 睡眠障害 / オレキシン / TRPV1 / 睡眠時無呼吸 |
研究実績の概要 |
本研究では、口腔顔面痛と睡眠障害が負のループを形成し、互いが慢性化および重篤化を引き起こす神経学的メカニズムの解明を目指している。2021年度は、睡眠障害、特に罹患率の高い睡眠時無呼吸症候群に着目し、睡眠時間帯の間歇的低酸素状態が口腔顔面痛を惹起するメカニズムについて誌上発表した。 睡眠時無呼吸モデルラットは、睡眠時間帯に密閉チャンバー中の酸素濃度を6分おきに5%にする間歇的低酸素状態を負荷することで作成した。睡眠時無呼吸モデルラットは、口腔顔面領域へのカプサイシン刺激(TRPV1アゴニスト)に対する閾値低下を呈した。また、三叉神経節細胞のTRPV1発現増加と、三叉神経脊髄路核尾側亜核ニューロンへのTRPV1陽性軸索の占有率増加が認められた。さらに、睡眠時無呼吸モデルラットの舌へのカプサイシン刺激に応答する三叉神経脊髄路核尾側亜核ニューロン数が増加した。これらの変化は、睡眠時間帯の間歇的低酸素負荷を中断すると、正常状態に戻った。すなわち、睡眠時間帯の間歇的低酸素負荷による、TRPV1を介した末梢・中枢神経系の感作が、口腔顔面領域の痛覚閾値低下をもたらす可能性が示唆された(Kishimoto, Katagiri, et al. Neuroscience, 2022)。 睡眠時無呼吸モデルラットは、口腔顔面領域への機械刺激に対する疼痛閾値の低下も呈する。三叉神経節細胞では、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)の発現増加も認められた。睡眠時無呼吸モデルラットへのCGRP受容体アンタゴニストの投与により、CGRP発現は減少し、機械刺激に対する疼痛閾値の低下が抑制された。また、本モデルにおける視床下部機能の破綻を証明できている。そこで、2022年度は、睡眠時の間歇的低酸素負荷による視床下部オレキシン経路の機能変化がCGRP発現を調節するメカニズムの解明に進む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID19の蔓延により、共同研究期間であるUniversity of Minnesotaへの渡航ができなかったため、卵巣除去雌性動物の性周期コントロール法確立は遅れている。そこで、雄性動物を用いて、口腔顔面痛と睡眠障害の相互作用についての神経メカニズム解明を優先して行っている。
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今後の研究の推進方策 |
睡眠時間帯の低酸素負荷は、口腔顔面領域へのカプサイシン刺激だけでなく、機械刺激に対する疼痛閾値の低下をもたらす。また、三叉神経節細胞におけるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(Calcitonin gene-related peptide: CGRP)の発現が増加することを確認している。三叉神経節細胞でのCGRP発現増加は、神経障害性疼痛や炎症性疼痛でも認められる所見である。睡眠時無呼吸モデルラットへのCGRP受容体アンタゴニストの投与により、CGRP発現は減少し、機械刺激に対する感覚過敏の抑制が認められた。また、本モデルにおいて、睡眠および疼痛の両者に関与する視床下部機能の破綻を示すデータを取得済みである。そこで、2022年度は、睡眠時の間歇的低酸素負荷により惹起される口腔顔面痛、逆に、口腔顔面痛により惹起される睡眠障害のそれぞれに対し、視床下部オレキシン経路が三叉神経領域のCGRP発現を調節するメカニズムを、電気生理学的および神経トレーサーを用いた実験により明らかにする。これにより、睡眠障害と口腔顔面痛が互いに症状の悪化をもたらす神経学的なメカニズムの解明が可能となる。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVD19パンデミックの影響により、国際共同研究機関であるUniversity of Minnesotaへの渡航が不可能であったため、その渡航費用が次年度使用額となった。2022年度に繰り越した研究費は、引き続き渡航費用としての利用を予定している。2022年度のアメリカへの渡航は、COVD19の感染状況を見極めた上で判断する。アメリカ渡航の見通しが立たない当面の期間は、雄性ラットを用いた実験を前倒し、実施している。本プロジェクトの進捗および新規データは、オンラインにてProf. Bereiterと共有している。卵巣除去雄性ラットに対する長期Estrogenレベルコントロール法の確立についても、引き続き、オンラインにて助言を得て進めている。
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