研究課題
前年度、肺MAC症臨床株の比較ゲノム解析を行い、Mycobacterium intracellulare臨床菌株は、typical M. intacellulare群とM. paratintracellulare-M. indicus pranii群に大別され、脂質代謝(fadE3, fadE33)、トランスポーター(mce3)、type VII分泌装置(ESX-2 system)などの菌株間の多様性に寄与する遺伝子群が存在することを明らかにした。このようなゲノム多様性をもつ臨床菌株に対して有効な薬剤標的を見出すため、M. intracellulare臨床菌株における必須遺伝子をトランスポゾンシーケンシング(TnSeq)により探索し、臨床菌株とATCC株との間で遺伝子必須性の相違を比較した。臨床菌株において、糖新生系およびtype VII secretion systemの遺伝子必須性が増加、輸送系遺伝子や二成分制御系遺伝子、解糖系の遺伝子必須性が減少していることが分かった。さらに、病原性の異なる臨床菌株に対して、マウス生体内における生体感染必須病原遺伝子を同定した。これらの遺伝子群は、実験室株の低酸素静置バイオフィルム形成に必須となる遺伝子群と共通していたことから、臨床菌株が実験室株と比べて低酸素環境に適応している可能性が示唆された。以上より、肺MAC症病原体に対する新規治療標的同定には、臨床菌株そのものに対する機能ゲノム解析により、臨床菌株共通の生存必須遺伝子を同定していくことの重要性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通り、臨床菌株のTnSeqを実施し解析結果を得ている状況であることから、研究は順調に進行している
今年度は、臨床菌株に共通の生存必須遺伝子に対してCRISPR干渉を用いた発現抑制株を作製し、試験管内発育における生存必須性の検証(機能解析)をおこなう。また、低酸素静置バイオフィルムおよびマウス感染のTnSeqにより同定されたバイオフィルム形成必須病原因子ならびに生体感染必須病原因子について、遺伝子欠損株を作製し、前記条件下での生存必須性の検証(機能解析)を行う。世界的コロナウイルスパンデミックがまだ続く状況であり、米国ミネソタ大学関係者との対面によるTnSeq解析手法の共有とデータ討議が困難となっているが、これまでの国際共同研究の成果とオンラインでの討議を活用しながら、TnSeqデータの解釈と機能解析の実験結果討論を行う。世界的コロナパンデミックの沈静化を確認できれば、渡航によるスーパーコンピューターを利用した代謝パスウェイ解析を計画する。米国MAC菌株については、入手交渉を進める。
世界的なコロナパンデミックにより、2021年度の米国渡航が困難となったことによる出張経費の未使用分が生じた。2022年度は、TnSeqを行うためのDNAライブラリー作製技術、ならびにコンピューター解析について、米国ミネソタ大学からの技術提供を最大限に活用し、本邦でのTnSeq解析を進めていく。コロナパンデミックの終息の兆しが見えれば、できるだけ早期に渡航を計画する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 1件)
Microbiol Spectr.
巻: - ページ: e0245421
10.1128/spectrum.02454-21.
Sci Rep.
巻: 12 ページ: 4310
10.1038/s41598-022-08228-7.
FEBS J.
巻: - ページ: -
10.1111/febs.16412.
巻: 11 ページ: 10953
10.1038/s41598-021-90156-z.
BMC Microbiol.
巻: 21 ページ: 103
10.1186/s12866-021-02163-9.