研究課題
本年度は脳炎症モデルマウス、筋萎縮性側索硬化症(ALS)モデルマウスを用いてFABP4によるミクログリアのM1/M2極性制御機構の解明を中心に検討を行った。LPS誘発脳炎症モデルマウスの脳よりミクログリアを単離し、脂肪酸の細胞内シャペロンであるFABP4、およびミトコンドリア内膜に存在する陰イオン輸送体であるUCP2の発現を検討した結果、FABP4の発現増加がみられる一方でUCP2の発現低下がみられた。同様の結果は、初代培養ミクログリアやミクログリア様細胞株(BV2)へのLPS添加実験でも確認出来た。一方で、FABP4遺伝子ノックダウンおよびFABP4インヒビター処置を行ったBV2細胞ではUCP2の発現変化は見られなかった。さらに糖代謝、脂質代謝の変化を検討した結果、LPS処置によって糖代謝の促進、脂質代謝の抑制がみられるが、これらの変化はFABP4遺伝子ノックダウンおよびFABP4インヒビター処置によってキャンセルされることが分かった。これらの結果は、FABP4はUCP2の発現制御を介してM1極性化を促進することを示す。この新知見は現在欧文雑誌に投稿中である。ALSモデルマウスであるG93A変異SOD1遺伝子組換えマウスの脳よりミクログリアを単離し、mRNA発現レベルを測定した結果、コントロールマウスに比べFABP4および炎症性サイトカインの発現増加がみられた。さらに我々は、脳炎症モデルマウスを用いた実験結果を参考に、FABP4インヒビター投与がALS症状を誘導できるかどうかを検討したが、効果は見られなかった。末梢血および脳実質のFABP4インヒビター量を質量分析で検討した結果、末梢血中ではFABP4インヒビターの存在が確認できたものの、脳実質中では検出が出来なかった。この結果はFABP4インヒビターが血液脳関門透過性を持たないことを示唆する。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は研究者が約5か月間に渡って豪州Monash大学およびMelbourne大学に滞在し実験を実施することができたため順調に計画が進捗した。ミクログリアにおけるFABP4の機能解析をさらに発展させるため、Crispr/Cas9技術を用い、FABP4を欠損させたヒトマイクログリア由来細胞株HMC3細胞の樹立を完了しつつある。現在作成した細胞株を用いて、細胞内ミトコンドリア代謝活性、貪食機能を解析する準備を進めている。
ミクログリアの貪食やサイトカイン産生に対するFABP4の関与メカニズムの解明に注力する。樹立したFABP4ノックダウン細胞を使って細胞内シグナル制御や核内脂質代謝の変化を詳細な解析を行う予定である。
研究開始にコロナ感染症の影響で予定していた豪州への渡航・滞在ができなかったことから、計画の進捗に若干ではあるが遅れが生じたのが一因である。本年度はほぼ計画通りに研究が進んだものの、成果発表(論文投稿、学会発表)を次年度に先延ばしした。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
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