研究課題
高効率N2O還元細菌の高度集積化と分離培養を行った。連続通水式のバイオリアクターを用いてN2O還元細菌の集積化を継続した。炭酸塩を炭素源とする無機培地とN2Oガスの連続供給により、N2O非添加のバイオリアクター(対照系)で集積された微生物群集と比較して、優位に増殖している細菌群を選出した。特に、Chloroflexi属に分類される種がN2Oを主に消費している可能性を明らかにした。この種の分離培養に向けた集積バイオマスの前処理方法の検討を進めた。集積バイオマスのメタトランスクリプトミクス解析を開始し、N2O還元細菌の炭素の代謝機構の解明を目指した。また、実験室規模のアナモックスリアクターを運転し、N2O生成・消費の収支を明らかにした。リアクターから放出されるN2Oは流入窒素の1.5%に達し、溶存態とガス態の割合は同等であった。今後、N2Oの削減を目指し、細菌の活性検出と活性化条件の検討を行う。15Nトレーサー法とオミックス解析を組み合わせ、脱窒細菌のN2O生成・消費機構の解明を目指した研究を進めた。電子受容体としての硝酸イオンとN2Oが共存する嫌気条件で、いずれかの電子受容体を優先的に利用する細菌、双方の電子受容体を均等に使う細菌が存在することを明らかにした。トランスクリプトミクス解析により、このような3つの脱窒の表現型は、遺伝子転写のみでは合理的に説明できないことを示した。N2Oを優先的に電子受容体として利用するN2O還元細菌の高密度固定化が可能なゲルの作製に着手した。N2Oの拡散性が高いゲルの材料およびゲル作製の方法について検討を進めた。
2: おおむね順調に進展している
コロナウイルスの影響により共同研究先への渡航が閉ざされていた状況が続いたため、先方に渡航してN2O還元細菌の電子伝達機構について議論を深め、解析を進めることが出来なかった。これに対し、N2O還元細菌のオミックス解析を新たに実施することにより、遺伝子の転写活性を網羅的に評価するアプローチにより電子伝達機構の解明に迫ることを導入した。その結果、新たな知見を得ることができ、今後渡航して行う研究対象が広がったと考えている。また、このような研究の進展に関しては、月例のオンライン会議を通して議論を深め、研究を進めた。このような試みにより、おおむね順調に研究を進めることができた。
2020-2021年度の研究により、外部有機炭素源が無い条件においても有機化合物を微生物群集内で獲得して高効率にN2Oを消費できる種類が明らかになった。引き続きN2O供給型のバイオリアクターの運転を継続し、N2Oを高活性に消費する細菌群の更なる集積化と分離培養によるN2O還元細菌の獲得を目指す。感染状況が好転し、渡航が可能になった際、栄養塩除去を達成する高度処理施設に生息する微生物叢・機能発現の網羅的解析、およびN2O還元酵素の電子伝達機構解明に向けて、ダルムシュタット工科大学に滞在して共同研究を開始する。得られるデータを元にN2O還元酵素をコードする機能遺伝子のPCRプライマーを設計し、遺伝子の正確定量を目指す。このような試みに並行して、15Nトレーサー法を省エネ型の窒素除去バイオリアクターのバイオマスに適用し、真のN2O生成速度およびN2O消費速度を定量し、有用なN2O還元細菌を見極める。特に、排水処理施設の運転環境で起こりうるN2O還元細菌の阻害因子を意図的にバイオリアクター内で忠実に再現し、N2O還元細菌の活性のダイナミクスを追跡する。今年度の研究により、N2O還元細菌の活性を維持しつつ高密度に固定化できるゲルの作製条件が絞り込めたため、分離培養に成功した細菌種の固定化を実施し、バイオリアクターの容積当たりのN2O消費速度を向上させるための検討を開始する。N2O還元細菌の生理生態解析といった科学的側面と、細菌のN2O削減機能を高める高度反応場の創製といった技術的側面を両軸として引き続き研究を進めていく。今年度以降、ダルムシュタット工科大学への渡航が可能になると想定している。月例会議を引き続き実施し、渡航先での研究内容を精査し、集中的に研究を進められるように準備する。
コロナウイルスの影響により、当初予定していた海外渡航(ドイツ・ダルムシュタット工科大学)による研究活動が実施できなかったため、次年度使用額が生じた。今年度および次年度で博士後期課程学生も含めた複数名の滞在により、効率的かつ集中的に研究を進めるための渡航計画を立て、研究を実施する予定である。
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Environmental Science & Technology
巻: 55(13) ページ: 9231-9242
10.1021/acs.est.1c00674