研究課題/領域番号 |
20KK0250
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
稲波 修 北海道大学, 獣医学研究院, 教授 (10193559)
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研究分担者 |
安井 博宣 北海道大学, 獣医学研究院, 准教授 (10570228)
永根 大幹 麻布大学, 獣医学部, 講師 (10772064)
山下 匡 麻布大学, 獣医学部, 教授 (30220338)
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研究期間 (年度) |
2020-10-27 – 2024-03-31
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キーワード | がん診断 / 低酸素性がん細胞 / 組織酸素濃度 / 電子スピン共鳴法 / OxyChip |
研究実績の概要 |
コロナ禍が続く状況で測定を予定していた米国ダートマスへの渡航が困難を極める中、これを打開するために、昨年度は小型の750MHz可搬型ESRイメージング装置を開発、実用化を進めている大阪大学の赤羽准教授ならびに北海道医療大学の藤井博匡教授に参画して頂き、2台の装置を北大と麻布大に設置して本プロジェクトの推進を行った。同時にOxychipの評価についてはZOOMを用いてKuppusamy研究室とコミュニケーションをとりながら進める体制を確立した。 低酸素性細胞検出のためのOxychipの実用化についてはポリヒドロキシ酪酸など増感剤を用いて検討を実施した。加えて、上記の可搬型ESR装置の予備的検討として、移植腫瘍モデルにおいてOxychipとの組合せにより組織酸素分圧の測定を試み、実用可能であることを示した。またこの装置とOxychipの更なるアプリケーションを開拓するため、マウスに測定部にOxychipを移植し、大体静脈結紮による下肢虚血モデルを作成し検討したところ、虚血に伴う組織酸素分圧の低下や組織修復・血管新生に伴う酸素分圧の回復過程の観察が可能である事を明らかにした。 また、固形腫瘍のレドックスイメージングと核医学イメージングの評価系と応用に関する実験も開始した。昨年度は可搬型ESRイメージング装置の基礎評価を中心に実施した。3CP、CTPOならびにTempolの3種類のニトロオキサイドプローブを用いて、生体関連還元性物質であるアスコルビン酸と混合した後のESRイメージングをインビトロの系で検討した。その結果はそれぞれのプローブに対する減衰速度は既報の結果とほぼ同様であった。さらに、小バイアルに封入したニトロオキサイドプローブのESRイメージングによって明瞭な3Dイメージング画像を取得することができ、来年度の実験動物への適用の可能性を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各年度はコロナ禍で渡米できない中、本プロジェクトで必須のESR測定が不可能なのは研究継続が不可能な状況であったが、研究代表者の共同研究者からの可搬型ESR装置の導入が実現したことで一気にこの問題を打開することができた。麻布大学に設置された装置はサーフェイスコイルによって正常筋肉や固形癌の酸素濃度の測定に特化した装置、北大に導入されたもう一台の装置は生体内のレドックスのためのイメージング画像に特化した装置であり、本研究の目的であるベッドサイド小型ESR装置のプロトタイプに匹敵する装置測定での癌の機能評価のために適した機器である。また、導入して頂いた2名の研究者には新たに来年度から研究分担者になって頂き、これ以降の研究で技術的なサポートを得られる共同研究体制を確立している。現在まで、これらの機器の基礎評価を行い、その結果、組織酸素濃度評価やレドックスイメージングの解像度は疾患の解析に十分な感度と解像度を持っていることや、既に、下肢虚血モデルでの組織修復や血管新生の評価も可能であることが明らかとなっている。 また、コロナ禍の中でも米国ダートマスのKuppusamy研究室とは継続的に遠隔でコミュニケーションを頻繁に取って、双方の研究結果の検討やKuppusamy研で合成したLiナフタロシアニン骨格プローブを組み込んだオキシチップの供給を受けている。また、のべ4名の学生、大学院生がこのプロジェクトに参画しており、研究者の育成という観点からも順調であると言える。 以上の進捗状況から、ほぼ概ね順調に進捗していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
オキシチップの実用化では腫瘍や正常組織におけるOxychipを用いた組織酸素分圧の測定が可能となった。そこで腫瘍免疫療法(腫瘍浸潤T細胞療法、免疫チェックポイント阻害剤)に対してもバイオマーカーとなり得るか検討する。また、虚血モデルにおける評価も可能であることが明らかとなったため、血管新生を促進する化合物のin vivoでのスクリーニングを予定する。 また、in vivoにおいても移動型ESRイメージング装置を用いた腫瘍内のレドックスイメージングが可能であると考えられる。今後はマウス担がんモデル動物を作製し、3種類のニトロキシルプローブによってレドックスイメージングを行い、還元速度の評価や、イメージング画像の取得を目指す。 また、今後のコロナ禍からの回復状況にもよるが、北大と麻布大学の研究分担者、学生、大学院生の渡米して共同研究を計画しており、Kuppusamy研究室との研究に関する検討、オキシチップの作成改良や、その原料であるリチウムナフタロシアニンプローブの作成などを計画している。 今後の研究グループには装置開発の専門家である大阪大学の赤羽准教授ならびにインビボESRイメージングで最先端の北海道医療大学の藤井博匡教授に本科研費プロジェクトに加わって頂く事になっており、以上の事から装置開発ならびにオキシチップの実用化を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度はコロナ禍のために予定していた米国ダートマス大学への研究者と学生の渡航が全く不可能であったことから、当該金額の翌年度への繰越となった。来年度はコロナ禍の推移にもよるが、米国との共同研究(学生、大学院生と共に渡米して実験結果やプローブ合成や測定法の検討)のための渡航費に当てる予定であるが、もし、それが不可能あるいは回数や人数が制限される状況であれば、その代わりに大坂大学とのESR測定のための技術交流のために旅費として充てる予定である。
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