2023年度は昨年度から引き続き,ソルボンヌ大側で開発されたadaptive precision SpMV(疎行列ベクトル積における理論誤差解析に基づく適応的な精度最適化の手法)に,我々が開発した高速削減精度メモリアクセッサー(RpFp)を組み合わせることによる高速化を検討した.昨年度から継続していたSpMVにおけるRpFpの適用に関して,国際学会(ICIAM2023)における口頭発表,国際学会(MCSoC2023)における査読付き論文投稿(採択され2023年12月発表予定)を行った.さらに2023年9-10月に仏ソルボンヌ大に渡航し,RpFpによるadaptive precision SpMVの高速化を実証し,結果は仏のプレプリントサーバHALにおいて出版した(hal-04261073).仏滞在期間中にはCADNAによる精度検証付きBLAS/LAPACKの開発に関して,C++テンプレートBLAS実装を活用した実装法に関する議論,またペルピニャン大学David Defour教授を訪問し混合精度演算のための高性能メモリアクセッサーの実装に関する議論とプロトタイプ実装も行われた. また既課題からの発展として,東京都市大学相原研輔准教授らとの共同研究により,DotKスキームの応用による高精度かつ高速な混合精度疎行列反復法ソルバーに関する研究を実施した.また芝浦工業大学尾崎克久教授らとの共同研究により尾崎スキームの細粒度な精度調整に関する研究を実施した.これらは現在論文投稿中(査読中)である. 本課題は研究代表者の退職により2023年10月末を持って廃止となった.1年半の全期間での主な成果は上記2023年中に発表した内容が主であり,幾つかの研究については成果創出に結びつく前に中断となったが,本課題による議論や得られた知見は共同研究者に引き継がれ今後発展することが期待される.
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