近年、アジアを中心に食肉消費が飛躍的に伸びているため「肉食社会」に対する批判が高まっている。世界的に拡大する畜産業が及ぼす環境破壊、抗生物質の乱用による家畜感染リスクの向上、過度な動物性食品摂取による健康被害などが指摘されている。基課題は、大衆肉食社会への扉が開かれた1860年代から1970年代を対象期間に据え、ドイツと日本が歩んだ対照的な道を分析することで、国際的に議論されている肉食化問題に比較史学に基づく貢献を目的としている。本国際共同研究は、ドイツと日本の事例を考慮しつつ、よりグローバルな視点の導入を目指したものである。太平洋圏と大西洋圏といった大きな対象地域を選定し、世界中の研究者が取り組んでいる家畜動物と動物性食品の歴史研究との比較を通して、新たな知見の獲得と共著本出版を目標としている。初年度の大きな目標であった、ヨーロッパにおける学会活動を積極的に展開することができた。ベルリンに拠点を置き、太平洋圏、大西洋圏に加え、インド洋を研究対象としている研究者と有意義な意見交換を実施することができ、国際的な研究ネットワークを構築することに成功した。また、複数の学会に参加した中で、アフリカや中南米の事例に接することも多く、グローバルサウス(=旧途上国)とポストコロニアル(=脱植民地化)の視点を持つ重要性を痛感したことが、今後の研究内容を進めるうえで大変貴重な経験となった。例えば、インドからブラジルに輸出されたゼブ牛が、ブラジルの畜産業を大きく発展させるうえで不可欠であったことを知り、技術移植が必ずしも西洋諸国発ではないことに気づかされ、比較対象国を慎重に選ぶことの大切さを知った。
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