研究課題/領域番号 |
20KK0307
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
永嶌 真理子 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (80580274)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2023
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キーワード | 結晶性 / 非晶質 / ラマン分光 / クリノゾイサイト / 緑簾石 |
研究実績の概要 |
放射性元素に起因しない結晶性の低下現象は,普遍的であるにもかかわらず,発生範囲が限定的で光学顕微鏡下で観察できず,さらに長周期原子配列やナノスケールでの補足が困難なため見過ごされてきたと考えられる。 基課題では研究代表者が天然緑簾石族鉱物から発見した本現象に関して,海外共同研究者の協力のもと,偏光顕微ラマン分光スペクトルを検討した結果,本現象は「原子配列の周期性に乱れがない同方位を持つ結晶子が断片化し,それらの境界領域の結晶性が低下している状態」であると明らかになった。さらに検討結果に基づき,その原因と発生メカニズムに関して仮説を提唱するに至った(Nagashima et al.2021)。 COVID-19の流行により,海外への渡航を当初の予定から延期せざる得ない状況となったため,海外共同研究者と今後の方策についてメールやオンラインで議論を重ねたところ,上述の現象の原因と発生メカニズムを解明するために,組成の異なる緑簾石族鉱物から偏光ラマン分光スペクトルを取得し,本鉱物の結晶構造内の原子結合状態と元素分布の関係を明らかにすることが重要であるという共通認識が得られた。これに基づき,事前準備として鉱物結晶25試料を選定し,それらの観察および化学分析を実施した。 さらに基課題で提唱した仮説の検証に適した合成物質を得るためにピストンシリンダー型高圧発生装置で実験を行った。合成生成物を検討した結果,化学組成に基づき対象とする物質が合成されたことが確認され,それらは偏光ラマンスペクトルを取得可能な粒子サイズであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19の流行により,渡航を当初予定から延期せざる得ない状況となったため,海外共同研究者と基課題における成果や問題点を整理し,渡航後の実験についてより具体的な研究打ち合わせを行った。 渡航後の実験を円滑に行うため,事前準備として対象となる鉱物結晶試料を25試料を選定し,それらの観察および化学分析を実施した。さらに基課題の成果に基づいて提唱した仮説を検証するために適した物質をピストンシリンダー高圧発生装置を用いて合成した。いくつかの実験条件で実験を行った結果,対象とする物質が成功裡に合成されたことを化学分析により確認し,その粒子サイズも偏光ラマンスペクトルの取得が可能と判断された。合成物質の詳細な評価は渡独後に実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年春の渡独が決定し,渡独後直ちに実験を開始する予定である。結晶性低下を示す天然緑簾石族鉱物に加え,様々な組成を持つ天然緑簾石族鉱物(25試料),および合成物質から偏光ラマンスペクトルを取得し,それらの解析を行う。今後のプロセスとして,まず本鉱物の結晶構造内の結合状態と元素の分布の関係を総括し,その後,それに基づき主対象である結晶性低下現象の原因とメカニズムの解明を目指す。本研究において前者の緑簾石族鉱物の系統的な理解はリファレンスとしての役割を担うが,地熱環境から超高圧条件下まで多様な環境下で生成される本鉱物の性状の詳細を明らかにすることは非常に重要な成果に位置づけられる。 渡独中はCOVID-19および世界情勢を注視しつつ,海外共同研究者と日常的に議論して研究を進める予定である。
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