90年代の始め,Goldberg と Milnor は,複素係数の多項式が生成する力学系が放物的な周期点(複数の周期点が退化したもの)をもつとき,もとの多項式の係数をうまく摂動することで,力学系のカオス部分を位相的に保ったまま,周期点の退化を解消できるであろう,と予想した.基課題「Goldberg-Milnor予想の解決に向けたμ-等角摂動の研究」は,この「Goldberg-Milnor予想」に対し,指定された複素構造の変形が実現できる「μ-等角写像」を用いた新しい解析的なアプローチ を提案するものである.この基課題の研究をさらに発展させるため,本国際共同研究では,「μ-等角写像」の様々な応用と実装,とくに複素力学系理論への応用を視野にいれ,「μ-等角写像」が満たす偏微分方程式である「退化Beltrami方程式」の一般的解法および数値解法を研究するものである.2023年度の研究実績は,以下の通りであった: ・D. Gaidashev氏と共同で,Beltrami方程式の近似解を構成するアルゴリズムと,そのための誤差評価を改良する研究を行った.とくに,Beltrami方程式の係数を定める可測関数(Beltrami係数)がコンパクトサポートを「もたない」場合の評価に注力したが,既存の結果からの劇的な改善は難しいことがわかった. ・上記アルゴリズムの実装にむけた準備として,既存のBeltrami方程式の近似解法のプログラムを作成した. ・基課題のテーマであるGoldberg-Milnor予想に対するμ-等角写像によるアプローチについて研究を進めた.具体的には,比較的良い性質を持つ有理関数やKlein群に対し,μ-等角写像を定めるベルトラミ方程式に解が存在しうることがわかった.
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