研究課題/領域番号 |
20KK0322
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小泉 宏之 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (40361505)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2022
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キーワード | 小型宇宙推進機 / 水 / プラズマ / 小型衛星 |
研究実績の概要 |
近年、小型宇宙機の利用数は急増し大きな発展が期待されている。一方で、廃棄/故障した宇宙機や部品のうち軌道上に残り続けるもの(デブリ)は、その衝突が宇宙機に壊滅的なダメージを与えるため、宇宙利用の持続可能性を脅かしている。この基本対策は,衛星廃棄,軌道上サービス,能動的デブリ除去である.衛星廃棄は、ミッション終了後の軌道低下による大気圏再突入か、低高度における大気抵抗補償とミッションの併用と終了後の受動的大気圏再突入である。前者は運用時間と電力確保が利点であり、後者は確実な廃棄と低高度利用が利点である。軌道上サービスは部分的に能力を失った宇宙機に対して機能を補償することでデブリの増加を抑える.能動的デブリ除去は既にデブリとなった物体を捕獲し再突入させる技術である。 本研究の目的は、このような状況に対して、高い環境適合性をもつ「水」を推進剤とした小型統合推進系の利用方法を深めることである。このために、本年度は、最新の小型宇宙機/推進機の利用・技術動向の整理および衛星廃棄への影響検討を実施した。はじめに、小型宇宙機・デブリの増加によるデブリ回避運用の急増が見込まれ、従来の軌道遷移あるいは軌道維持のための推進性能評価だけでは不十分であることが示された。軌道遷移/維持のための推進系運用は長期間にわたる速度増分の積分量が重要であるため、平均値を用いた評価が可能であった。一方、デブリ回避運用は散発的に短い時間スケールで生じるため、衛星の瞬時状態に大きく左右されるためである。つまり、推進系の価値評価のため短期・長期両者の評価が不可欠となった。このため、衛星パラメータの絞り込みを行い、衛星の瞬時状態を評価しつつも計算コストの点で全期間解析およびグローバル感度解析を可能とする衛星システムモデルを構築した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
急増する衛星数とデブリに対して重要となるデブリ回避運用に対する推進系の評価を行うための衛星システムモデルを構築した。このモデルは、瞬時的な衛星状態を捉えながらも、ミッション期間全体の模擬を行う必要がある。また、評価するべき推進系パラメータが増える(推進機の選定、待機時間、外乱トルク、など)ため、結果に対する感度解析の重要性が高い。つまり、多数回の計算が不可欠となるため、パラメータを軌道(摂動として推進力・大気抵抗・J2項)、電力、角運動量、データと最低限にしぼりこみ、計算コストを抑えながらミッション全体の評価が可能なモデルを構築した。 ほか、正当な推進系の評価を行うためには、その評価指標が重要である。現在増加している低軌道小型衛星は商業利用が占めているため、そのプロジェクト実施可否に多用されている割引現在価値を指標として選定し、そのモデル化に必要な費用と収益のデータの収集を進めている。また、ミッション全体での評価をより洗練させるためには、衛星が有する単純な自動機能だけでなく、地上局通信時に与える複雑な運用指示の模擬が必要となる。この地上局運用を、フィージビリティスタディに組み込むための方法として、深層強化学習を選定し、この導入のためのフレームワークの構築を実施している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度で、フィージビリティスタディを実施するための基本方針の検討と擦り合わせ、ならびに基本的なモデル構築が完了したため、次年度は推進系の評価を進めていく。具体的には、デブリ回避運用の種類・回数、推進系のパラメータが、最終的な衛星価値にどのように影響を与えるかを明らかにする。このためのツールとして、本年度に作成した衛星ミッションモデルに対して、割引現在価値モデルおよびグローバル感度解析を実施する。
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