研究課題
これまでの強誘電性半導体を用いた電子デバイス開発は,傾斜したバンド構造が未知なままだったため,半ばコンビナトリアルな手法に頼らざるを得なかった。申請者らは,強誘電体BaTiO3薄膜に対し放射光光源を用いた角度分解光電子分光実験を行い,傾斜したバンド構造を観測することに成功した。しかし,強誘電性の起源となる電気分極の成り立ちについて,フォノンと電子構造の双方からの議論が充分なされておらず,強誘電性と半導体物性が両立するフェロイック物質を用いたデバイスの完全設計には至っていない。そこで本研究では,① 傾斜したバンド構造からの電気分極形成機構を解明し,②新しいフェロイックデバイス設計の指針となる,強誘電性半導体物性の解明に取り組む。今年度は,BaTiO3に一部磁性金属イオンを極低濃度置換処理を施したサンプルにおいて磁性と誘電性が互いに相関性をもつ物性を明らかにすることができた。論文投稿中なので詳細は控えるが,先行研究にない低濃度の磁性イオン置換効果を磁化応答から明らかにし,それにともない誘電性,とくに電気分極の電場印加応答に新しい挙動をもたらすことを見いだした。これらは放射光を用いた回折実験から得られた微細構造結果からも裏付けるものとなった。一方,傾斜したバンド構造については,放射光を用いた角度分解光電子分光実験(AR-HAXPES)を行っているが,薄膜試料のモノドメイン化が不十分なことが判明し,その結果再現性のあるデータ取得が困難であることがわかった。現在,新しい薄膜試料合成に取り組んでおり,それができ次第,AR-HAXPES実験に再度挑みたい。
2: おおむね順調に進展している
コロナ禍の関連で,共同研究先のグループメンバーの日本での実験,および申請者の共同研究先のグループでの実験が,当初予定より十分になされていない。日本での実験は1年遅れて昨年度後期に3ヶ月にわたり実施することができ,ようやく遅れを取り戻すことができた。が,申請者は年度末の短期間滞在に留まっており,次年度遅れを取り戻したい。しかし,全体的に研究はオンラインでの会合,および実験分担を積極的に行ったため進んでおり,論文も現在投稿中であるため,概ね順調に進展していると評価した。
申請書の研究計画に記した実施項目は全部で8あり,そのうち5つについては完了している。残り3項目は,(1)傾斜バンド構造の完全観測 (2)紫外ラマン (3)単結晶合成 であるが,3については当初バルクで試みていたが単結晶薄膜で対応する。現在パルスレーザー堆積法の最適化を行っており,5nmから100nm厚に対応できつつある。3ができ次第,1を日本国内の放射光施設で行う。2については,海外共同研究グループで実施する。1については,ビームライン担当者と時分割測定の検討を行っている。もし良質な単結晶薄膜の合成がうまくいかなかった場合,電場印加による分極反転時の分極配向時間が短時間になるため,短時間測定が必要になるためである。2については,共同研究者と打合せ済みであり,液体窒素温度から600度まで温調可能なセルも立ち上がっている。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件)
Applied Physics Letters
巻: 122 ページ: 112403~112403
10.1063/5.0133578