研究課題/領域番号 |
20KK0331
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
中茎 隆 九州工業大学, 大学院情報工学研究院, 教授 (30435664)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2023
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キーワード | DNAコンピューティング / 多層パーセプトロン |
研究実績の概要 |
生体分子で構成されるマイクロサイズの分子ロボットは,様々なナノ技術が統合された知的システムである。医療分野での応用が期待されている分子ロボット技術の社会実装を加速する上で,複雑な情報処理を行うプログラム可能な人工分子回路の実用的な設計法が求められている。本国際共同研究では,人工分子回路の理想的なアナロジーとして、細胞内シグナル伝達系を据え,制御理論を基盤とする基課題に,シグナル伝達系の動作原理とマイクロデバイス技術を融合した多層パーセプトロン回路の開発を行う。具体的には,DNAコンピューティング技術をベースに,DNA鎖間の結合・解離反応を設計し連鎖させる反応系(以後,DNA回路)に多層パーセプトロン演算を実装することを目指す。 新型コロナウイルス感染拡大の影響で,渡航時期は大幅に遅れているが,2021年度は渡航に先立ち,多層パーセプトロンの反応系設計に着手した。国際共同研究では,設計された反応系をマイクロデバイス上に実装することを計画しているからである。多層パーセプトロンの基本ユニットは,単純パーセプトロンであるため,まず,単純パーセプトロンに必要な演算(反応系内を流れる信号(DNA鎖の濃度)の加算と閾値演算)の反応系設計に取り組んだ。一般に,DNA回路設計においては,分子間相互作用の熱力学的ゆらぎに起因する設計者が望まない副反応を防ぐことは難しい。現在のところ,副反応による擾乱がボトルネックとなり,実験的に動作検証された研究成果は,小規模で単純・単発な機能(AND、OR、Amplifierなど)を持つDNA回路に限定される。本研究で設計すべき多層パーセプトロン回路は大規模になるため,革新的なDNA回路の設計法を考案することが本質的に求められる。2021年度は単純パーセプトロン回路の試作と多層化のための原理検証をシミュレーションレベルで行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により,渡航時期は大幅に遅れている。ただし,2021年度当初から渡航時期は見通せないことは予測できていたので,「研究実績の概要」で述べたように,多層パーセプトロン回路のためのDNA反応系設計を進めてきた。シミュレーションレベルでの動作検証を進めてきたが,一方で, 1) 実験系(マイクロデバイス)に存在する不確定要因を考慮に入れた詳細設計は渡航後でないとできないこと, 2) 交付申請を2022年1月に行ったこと, を鑑み,進捗状況を「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,多層パーセプトロンの基本ユニットである単純パーセプトロン回路のDNA反応系設計,および,それらを直列的,並列的に接続した多層パーセプトロン回路の反応系設計に取り組んだ。分子間相互作用の熱力学的ゆらぎに起因する設計者が望まない副反応に対する頑強性について,シミュレーションレベルで検証を進めているが,実証実験を推進する。併せて,渡航後にマイクロデバイスへの実装について国際共同研究を本格的にスタートさせ,理論,シミュレーション,実験の3方向で研究を深めていく。
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