研究課題/領域番号 |
20KK0339
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
安原 崇哲 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (90757056)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2023
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キーワード | 染色体転座 / 凝集体 / 転写 / がんゲノム異常 |
研究実績の概要 |
これまでの研究で、遺伝子融合が広範な転写の阻害によって増加するということが判明したことから、「転写活性化領域には染色体転座が発生する潜在的なリスクがある」という仮説を立てた。 この仮説を検証するため、まず、がんゲノムデータベースTCGAを用いた解析を行った。遺伝子領域で生じた染色体転座、つまり遺伝子融合を起こした遺伝子のコホートにおける発現分布と、全遺伝子の発現分布を比較したところ、がんサンプルにおいて遺伝子融合を起こした遺伝子の発現は顕著に高発現側に偏っていることが分かった。つまり、転写が活性化している遺伝子は、遺伝子融合を生じやすいという仮説を支持した。 さらに、転写伸長阻害下での遺伝子融合頻度の増加に、液-液相分離を介した凝集体が関与していることが示唆されたことから、染色体転座計測系を用いて高発現遺伝子と低発現遺伝子における融合発生頻度の比較を行う実験、FISHと免疫染色を組み合わせて、高発現遺伝子領域の凝集内への局在を検証する実験を行った。その結果、高発現遺伝子は低発現遺伝子に比べて有意に染色体転座の頻度が高いこと、さらに、高発現遺伝子領域は凝集内へと局在しやすいことが判明した。 当研究を通して、「なぜ転写領域において染色体転座が起きるのか」また、もし転写領域に染色体転座が本来的に起きやすいとすれば「転写に関連したクロマチンの構造が遺伝子融合を起こしやすい環境を作っているのか」という問い対して、転写機構とゲノム異常の発生の関係性を様々な角度から解析することで、がんゲノム異常が発生するメカニズムの解明を目指す。 今年度は当研究の成果をまとめた論文を出版した(Yasuhara et al. Molecular Cell 2022)。さらに、イメージング解析を主体として、転写阻害後に生じる凝集体の性質と、その性質が染色体転座の促進にどのように寄与しているかについて解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
渡航先での実験は順調に進展して帰国することができ、それらの成果をまとめた論文を出版できたが、帰国後の実験において必要な共通機器が故障で使用できない期間が長期間あったため。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続きイメージング解析を主体として、転写阻害後に生じる凝集体の性質と、その性質が染色体転座の促進にどのように寄与しているかを明らかにする。
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