研究課題/領域番号 |
20KK0351
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
小野寺 淳 千葉大学, 大学院医学研究院, 准教授 (10586598)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2022
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キーワード | エピジェネティクス / 発生・分化 / 第三世代シークエンス / 炎症性疾患 / 発現制御 |
研究実績の概要 |
交付申請書に記した研究目的に即し、研究代表者はepigenetic制御分子の欠損で共通に見られるゲノム不安定性、転移因子の再活性化、炎症性疾患、および腫瘍化の機構解明を目指して、ヘテロクロマチン領域でのシトシンメチル化に着目して研究を進めた。 初年度は、基研究となった「DNAの能動的及び受動的脱メチル化の制御機構」のまとめ及び本研究の出発点となる原著論文を発表した。関連するプレスリリースを行い、海外を中心として様々なウェブサイトに掲載されるなどの反響があった。また、本研究に関連する英文総説を二報、邦文総説を一報発表した。いずれも、DNAシトシンメチル化の酸化酵素TETと、類似の構造を持つCxxc1に関する内容が中心である。これらに加えて、日本国内でも二度の学会発表の機会があった。 実際に研究を進めるにあたり、主たる連携海外研究機関であるLa Jolla Institute for Immunology (LJI)で実験データの取得を重点的に実施し、近隣のUniversity of California, San Diego (UCSD)の研究者の協力も得た。LJIでのIn-houseセミナーでも研究発表を行い、海外の研究者と活発な意見交換をする機会も多かった。研究のキーデバイスである第三世代シークエンス技術(Oxford Nanopore社製)によるデータの取得は、オーストラリアのThe University of Queenslandとの共同研究である。本研究の開始に伴い、海外での研究ネットワークは当初の予想以上に広がり、更なる国際共同研究の発展に向けた下地を作ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記した研究計画即して記載する。 (モデル1)として記載した、アレルギーの原因となるTh2細胞の研究では、ヘテロクロマチン領域のシトシンメチル化レベルを第三世代シークエンス技術(Oxford Nanopore社製)で解析した。その結果、TET酵素を欠損させると予想通りに一部のヘテロクロマチン領域のシトシンメチル化レベルが低下することが分かった。 また、(モデル2)として記載した、TET欠損の炎症性マクロファージの研究では、RNA-seqデータの追加解析により、レトロトランスポゾンと呼ばれる転移因子の転写レベルの上昇が見られた。TET欠損のマクロファージをin vitroで長期間培養すると、野生型に比べて増殖速度が著しく上昇する知見も得られた。 (モデル3)として記載した、TET欠損で誘導される急性骨髄性白血病(AML)のマウスモデルにおいて、第三世代シークエンス技術で解析を行った。その結果、ヘテロクロマチン領域のシトシンメチル化低下が起こることが確かめられた。興味深いことに、Stefin遺伝子クラスター領域では、TET遺伝子の欠損によるヘテロクロマチンからユークロマチンへの転換と転写レベルの上昇が観察された。この領域ではシトシンメチル化レベルの変化は見られず、DNAメチル化に依存しないヘテロクロマチン機能異常という新たな制御機構の存在が示唆された。(モデル3)に関しては現在論文投稿中である。以上のように、予定していた研究内容は順調に進み、さらには当初の予想外の知見が得られるなど、現時点での達成度は十分であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書の計画に沿って研究を進めることを基本とするが、当初の計画よりも進捗が早いので、いくつかの項目は計画を前倒ししながら進めていく。 (モデル1)アレルギーの原因となるTh2細胞:これまでの研究で、TET欠損とヘテロクロマチンの機能異常の関連性が示唆されている。この知見をT細胞全般に拡張して、炎症を起こす病原性T細胞でのヘテロクロマチンの機能異常について解析を進めていく。また、Hi-Cデータ解析による空間的相互作用、ヘテロクロマチンとユークロマチンの分類を行い、生体防御に働くT細胞と病原性を持つT細胞を区別するのに有用な、ノンコーディング領域の探索にも挑戦する予定である。 (モデル2)TET欠損の炎症性マクロファージ:RNA-seqデータの解析により見られた、レトロトランスポゾン等の転移因子の転写上昇と、ヘテロクロマチンの機能異常、増殖能亢進との関連を調べる予定である。具体的には、ヘテロクロマチンの機能異常が、遺伝子変異を加速するとの仮説を、全ゲノムシークエンスをすることで検証する。また、レトロトランスポゾンの転写産物を認識するRNAセンサー、DNAセンサーが増殖能亢進に果たす役割を、sgRNAを用いた実験系で明らかにする。 (モデル3)TET欠損で誘導されるAML:これまでの実験データで、ヘテロクロマチンの機能異常と発症との関連性がある程度明らかになりつつある。次のステップとして新たな治療法の探索が挙げられ、既に複数の標的候補を見出している。TET欠損を誘導したマウスに、標的分子の阻害剤を投与して、末梢血における骨髄系の細胞の増殖抑制や生存期間の延長などの効果が見られるか検討する予定である。
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