研究課題/領域番号 |
20KK0359
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研究機関 | 久留米大学 |
研究代表者 |
椎村 祐樹 久留米大学, 付置研究所, 助教 (40551297)
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研究期間 (年度) |
2021 – 2022
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キーワード | グレリン受容体 / Cryo-EM |
研究実績の概要 |
グレリンは胃から分泌されるホルモンで、Gタンパク質共役型受容体 (GPCR) の一つであるグレリン受容体に結合して成長ホルモンの放出促進や摂食亢進といった生理作用を示す。グレリンは、ペプチドホルモンで唯一、脂肪酸修飾によって活性化されるホルモンであるが、グレリン受容体がどのようにしてグレリンの脂肪酸修飾の有無を認識しているのか、その分子機構は明らかになっていなかった。そこで、その認識機構を明らかにするためにCryo-EM法によるグレリン受容体/Gqタンパク質複合体の構造解析を試みた。 当初、グレリン受容体とGqタンパク質を別々に発現・精製した後に複合体形成させる手法を用いていたが、グレリン受容体の発現量が低く、またGqタンパク質との複合体形成効率も低かったため、電子顕微鏡実験に移れなかった。そこでTethering Strategyによる複合体形成を検討した。Tethering Strategyでは、GPCRのC末端にLgBiTを、Gβタンパク質のC末端にHiBiTを融合させて、これらサブユニットによる近接効果によって複合体形成効率の向上を図ると言うものである。その結果、ゲル濾過クロマトグラフ上で、単分散性の高いグレリン受容体/Gqタンパク質複合体のピークが得られた。得られた複合体サンプルを氷包埋してスクリーニング用の200 keV電子顕微鏡で、粒子観察およびデータ収集を行なった。解析の結果、グレリンまたはアナモレリンが結合したグレリン受容体の立体構造をそれぞれ4.5 Å、4.1 Å分解能で構造決定することができた。今後は、構造決定用の300 keV電子顕微鏡を用いて、より詳細なグレリン受容体/Gqタンパク質複合体を決定する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、研究計画に基づき、グレリン受容体とGqタンパク質を別々に発現・精製した後に複合体形成させる手法を用いた。グレリン受容体とGqタンパク質を複合体化するためには、基研究課題で用いたような不活性型に固定してしまう安定化変異体を用いることができず、グレリン受容体の発現量および収量が著しく低下してしまった。さらに精製したグレリン受容体とGqタンパク質の複合体形成能も低く、電子顕微鏡実験に移れるだけのグレリン受容体/Gqタンパク質複合体を得ることができなかった。 Kobilka博士とのディスカッションの結果、グレリン受容体の安定な精製のために、グレリン受容体とGqタンパク質を共発現・共精製する方法に変更した。この際、Tethering Strategyを用いた。Tethering Strategyでは、グレリン受容体のC末端にLgBiTを、Gβタンパク質のC末端にHiBiTを融合させて、これらサブユニットによる近接効果によって複合体形成効率の向上を図ると言うものである。その結果、ゲル濾過クロマトグラフ上で、単分散性の高いグレリン受容体/Gqタンパク質複合体のピークを得ることができた。 Kobilka研究室のポスドクの協力のもと精製タンパク質をCryo-EM用のグリッドに展開し、氷包埋を行なった。凍結グリッドをスクリーニング用の200 keV電子顕微鏡で観察したところ、タンパク質粒子が点在する良好なグリッドであることが確認できた。そこで1500枚の画像を取得して画像解析を行った。その結果、グレリンと結合状態にあるグレリン受容体/Gqタンパク質複合体構造を4.5 Å分解能で決定することができた。同様に、アナモレリンと結合状態にあるグレリン受容体/Gqタンパク質複合体構造を4.1 Å分解能で決定することができている。
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今後の研究の推進方策 |
上述したように、スクリーニング用の電子顕微鏡でグレリンまたはアナモレリンが結合したグレリン受容体の立体構造をそれぞれ4.5 Å、4.1 Å分解能で構造決定することができているので、このまま構造決定用の300 keV電子顕微鏡を使って、より詳細なグレリン受容体/Gqタンパク質複合体を決定する。しかし残念なことに、グレリンが結合したグレリン受容体/Gqタンパク質複合体の立体構造は、2021年に相次いで中国とアメリカのグループに先を越されてしまった。そこでKobilka博士との相談のもと、現在のグレリンまたはアナモレリンが結合したグレリン受容体の立体構造を中心に、様々なアゴニストと結合状態にあるグレリン受容体の構造解析に舵を取ることにした。グレリン受容体のアゴニストは、カヘキシアの治療薬となっているアナモレリンだけではなく、フレイルやサルコペニアといった老化による筋肉減少および摂食障害の治療薬候補とされるものもあり、グレリン受容体のリガンド認識機構をさらに詳細に検討することは、医学の発展にとっても重要である。一方で、グレリン受容体は、Gqタンパク質だけでなく、Giタンパク質やG13タンパク質とも共役する。そこで、Gqタンパク質複合体だけに限らず、そのほかのGタンパク質とも複合体形成しているグレリン受容体の立体構造を明らかにしてGタンパク質選択性の解明を行う。
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