自然リンパ球(Innate lymphoid cells: ILCs)は、細胞の分化と機能により1から3型の3つに分類され(NK細胞などを加えた場合は5つ)、抗原受容体を発現していないことから自然免疫に分類される免疫細胞である。2008年に初めてILCが同定され、この3つのILCsは全て疾患誘導や制御に関与するユニークな機能を持つことが明らかになってきている。その為、今なおILC研究は世界的にも競争が熾烈な中、日本がILCs研究で世界を牽引しているとは言い難い。そこで当初の本研究開発では、多くの遺伝子改変マウスを所持しているフランス・パスツール研究所のDr. James Di Santoとの共同研究を実施することで遺伝子改変マウス作製にかかる時間を短縮し、ILCsの疾患誘導に関わる機能の解析について研究の促進を図ることを目的とした。しかしながら、本研究開発が採択された2020年初頭からの世界的なCOVID19のパンデミックにより、申請者が所属する研究機関においても海外渡航禁止令が発令され、国外での研究活動が実質不可能になった。そこで、渡航が可能になるまで共同研究先のパスツール研究所では解析が必要になる遺伝子変異マウス(ILC1特異的KOマウス)の作製とコロニー拡大と必要な遺伝子欠損されたマウスを得るための掛け合わせを依頼し、渡航が可能になった2022年の夏以降にフランス・パスツール研究所にてマウスの解析を実施した。本研究では、腹膜炎発症動物モデルを用いた解析により急性炎症誘導時に脂肪組織にPD-L1を発現するILC1が増加する事を見出した。この増加したILC1は炎症性サイトカインであるIFNgを産生せず、さらに通常CD127を発現するユニークな細胞であり、PD-1を介してgdT細胞をコントロールすることで炎症をコントロールする事で体内恒常性を維持していくことを明らかにした。
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