研究課題/領域番号 |
20KK0361
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 祐介 東北大学, 薬学研究科, 助教 (10748221)
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研究期間 (年度) |
2020 – 2022
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キーワード | トランス脂肪酸 / フェロトーシス / 細胞死 / 細胞老化 / 炎症 |
研究実績の概要 |
これまで代表者らは、トランス脂肪酸の毒性発現(細胞死・老化促進作用)の分子機構を世界に先駆けて明らかにし、関連疾患の発症機序解明に取り組んできた。本研究では、1)基課題の研究計画のみでは達成が困難であった、細胞死・炎症誘導シグナルの最上流で機能するトランス脂肪酸の直接的な作用点(ターゲット分子)の同定、2)発展課題として、生体膜リン脂質(高度不飽和脂肪酸)酸化を起点とした新規プログラム細胞死フェロトーシスおよび炎症応答惹起に寄与する、膜リン脂質酸化のセンサー分子ならびに炎症誘導シグナルの制御機構の解明、を目指す。 2021年8月より、国際共同研究先であるトロント大学・The Hospital for Sick Children(カナダ・トロント)のSergio Grinstein教授の研究室に代表者自身が滞在し、本プロジェクトを進めてきた。Grinstein教授の有する様々な生体膜脂質の生体膜の機能・代謝・動態などの解析ツールや、膜関連タンパク質の機能解析ツールを利用した包括的解析により、トランス脂肪酸の細胞老化・炎症促進作用に関連する直接的なターゲット候補分子として、IL-1受容体自体あるいは受容体アダプター分子群が同定された。また、発展課題では、フェロトーシスに関連する膜リン脂質酸化のセンサー候補分子として、複数のイオンチャネル分子が挙がってきた。さらに、ある特定のトランス脂肪酸種を細胞に単独処置するだけでフェロトーシスが誘導されることも新たに見出し、その詳細な分子機構も明らかになりつつある。 以上のように、代表者が国際共同研究先で新規技術の習得、新規分子の探索・同定を行い、基課題の実施施設である東北大・薬学研究科にて、代表者の統括下で、複数の大学院生が関連する炎症応答やシグナル経路の解析を進めるという国際共同研究体制が効果的に機能しており、本研究は順調に推移している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2021年8月より、生体膜脂質および膜脂質関連タンパク質の機能解析の研究領域で世界屈指の研究業績を有するSergio Grinstein教授、およびSpencer A. Freeman助教との国際共同研究がスタートした。コロナ禍の影響で、渡航時期の遅延や、現地到着後の共同研究スタートの時期の遅延などに見舞われたものの、当初の計画に基づき、Grinstein教授が保持する様々な生体膜脂質の機能・代謝・動態などの解析ツールや、膜関連タンパク質の機能解析ツールを利用した包括的解析によって、トランス脂肪酸の直接的なターゲットとなる候補分子の同定に至った。また、発展課題である、膜リン脂質酸化のセンサー分子ならびに炎症誘導シグナルの制御機構の解明についても、フェロトーシスに関連する膜リン脂質酸化のセンサー候補分子として、複数のイオンチャネル分子を得ることができた。現在、この国際共同研究によって得られた一部の成果を論文投稿中であり、当初の目的を十分に達成することができたと考えている。 さらに、本研究を進めていく中で、ある特定のトランス脂肪酸種を細胞に単独処置するだけでフェロトーシスが誘導される現象も新たに見出した。興味深いことに、このトランス脂肪酸の細胞死誘導能は、幾何異性体に相当するシス脂肪酸よりもはるかに強力であり、トランス型脂肪酸特有の作用であることが示唆されている。フェロトーシスは、膜リン脂質中の高度不飽和脂肪酸の過酸化によって引き起こされる細胞死であるが、このトランス脂肪酸は、それ自体が酸化されるのではなく、未知の機構で高度不飽和脂肪酸の過酸化を惹起し、フェロトーシスを誘導することが分かってきており、現在そのターゲット分子の同定を遂行中である。 以上のように、当初の研究目標を達成した上で、さらに想定外の研究成果も得られていることから、本研究は当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
代表者のGrinstein教授の研究室への滞在は、2022年7月までの予定である。それまでに、同定したターゲット候補分子のさらなる選定と、詳細な作用機構の解明をできるだけ進めていく方針である。その間、代表者が国際共同研究先で新規技術の習得、新規分子の探索・同定を引き続き担当しながら、基課題の実施施設である東北大・薬学研究科にて、複数の大学院生(リモート会議を定期的に行いながら統括・指示)が関連する炎症応答やシグナル経路の解析を進めるという国際共同研究体制で本研究を進めていく。 代表者の帰国後(2022年8月以降)も、国際共同研究体制をこれまでと変わらないレベルで当面維持する予定である。具合的には、本研究の大部分は、基課題の実施施設である東北大・薬学研究科にて実施することになるが、Grinstein教授およびFreeman助教には、リモート会議によって定期的に連絡を取りながら、実験の一部の実施をお願いしたり、必要に応じてその都度解析ツールやアドバイスの提供をお願いする予定である。そのための計画や段取りについても、すでに日本・カナダの双方で話を進めており、帰国時の研究の中断を最小限に留め、研究体制の移行を効率よく進めていくことで、計画に基づいて本研究を遅延なく進めていく予定である。 特に、想定外の研究成果として見出した、あるトランス脂肪酸種のフェロトーシス誘導機構については、その作用点となる膜脂質や膜関連タンパク質の同定、ならびにその炎症誘導作用や細胞内シグナル経路活性化機構の解析を同時平行で進めていく必要があり、本国際共同研究体制を最大限に活用しながら、効率的にこれらの解明を目指していきたいと考えている。
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