研究課題
CD4 T細胞は外来抗原に対する獲得免疫応答に必須のリンパ球であるが、我々は同細胞中に、自己抗原認識依存的に産生され病原体感染時には自然免疫機能を発揮し得る新規「Memory-phenotype (MP)細胞」を同定した。この発見に基き、基課題では同細胞の質的特異性の解明、産生・分化・活性化機構の究明、免疫学的機能の解明を研究目的に設定したが、これらはいずれも焦点をMP細胞自身に絞ったものであり、研究対象が限定的であった。一方、我々の最近の研究により、MP細胞と抗原特異的メモリー細胞や自然リンパ球との質的差異が明らかになりつつある(投稿中)。また我々は、MP細胞と樹状細胞、制御性T細胞との相互作用の重要性に関しても提唱した(Int Immunol 2022)。そこで本研究では、米国立衛生研究所(NIH)との共同研究により、研究対象をMP細胞から抗原特異的メモリー細胞や自然リンパ球、抗原提示細胞、制御性T細胞へと拡げ、MP細胞を取り巻く免疫細胞ネットワークの全容解明を図ることを目的とした。本年度は主に国内において、来年度のNIHとの国際共同研究のための準備を行い、MP細胞自身の特性に関する知見を蓄積した。また、MP細胞と抗原特異的メモリー細胞とを鑑別するマーカーを同定しつつあるほか、MP細胞と樹状細胞、制御性T細胞との相互連関に関しても検証した。来年度は主にNIHにおいて、Jinfang Zhu博士が作製したT-bet/Gata3/RORgt/Foxp3レポーターマウスの使用、Alan Sher博士との共同研究による感染実験、Kwang Soon Kim博士の保有するAntigen-freeマウスの解析等を通じ、新たな「MP細胞免疫学」(Cold Spring Harb Perspect Biol 2021)の提唱・確立を目指す予定である。
2: おおむね順調に進展している
(1) MP細胞の質的特異性の解明:Kim博士、Jonathan Sprent博士(豪州Garvan Institute)との国際共同研究により、MP細胞の絶対数をSpecific pathogen-free (SPF)、Germ-free (GF)、Antigen-free (AF)マウスにおいて比較解析した(投稿中)。また、MP細胞のTCR deep sequenceを行った。(2) MP細胞の分化・活性化機構の究明:MP1サブセットが定常状態下において多く検出される一方、MP2/17は少ないことが明らかになった。現在、リンパ球減少状態や制御性T細胞欠損下におけるMP細胞分画を解析中である。(3) MP細胞による自己免疫疾患発症機構の推究:ある特定の状況下においてMP細胞が自己免疫活性を発揮し得る可能性が明らかになった(投稿準備中)。現在、その詳細なメカニズムや制御性T細胞の関与等につき検証中である。(4) MP細胞を特定しうるマーカーの同定:Sher、Sprent両博士との国際共同研究により、MP細胞とメモリー細胞を鑑別するマーカーとして3分子を同定した。そして、この3分子により、自己特異的MP細胞がさらに4分画に分類され得ることをAntigen-freeマウスを用いて発見した(投稿中)。現在、この4分画の持つ免疫学的意義を検証している。(5) MP細胞 - 周辺細胞間の相互連関の解明:定常状態下、MP細胞の産生・維持・分化が樹状細胞により促進され、制御性T細胞により抑制されるとの仮説を提唱した(Int Immunol 2022)。現在、同仮説を各種遺伝子改変マウスを用いて検証中である。
(1) MP細胞の質的特異性の解明:Kim、Sprent両博士との共同研究により、GF、AFマウスにおけるMP細胞の解析をさらに進めることで、SPF環境におけるMP細胞のうち何割が自己特異的細胞なのかを明らかにする。(2) MP細胞の分化・活性化機構の究明:Zhu博士の作製した転写因子レポーターマウスを用いて、MP1/2/17サブセットの恒常性維持機構・恒常的分化機構を明らかにする。またSher博士の保有する各種病原体を用いて、これらのサブセットによる感染防御機能を解明する。(3) MP細胞による自己免疫疾患発症機構の推究:実際の病原体感染モデルを用いて、MP細胞による炎症原性が感染により高まるかどうかを明らかにする。これにより病原体感染と自己免疫疾患との関係性を解明する。(4) MP細胞を特定しうるマーカーの同定:これまでに同定したMP/メモリー鑑別マーカーが他の病原体特異的メモリー細胞にも適用可能かどうか、実際の病原体を用いて明らかにする。また、同様の解析をヒトにおいても行う。(5) MP細胞 - 周辺細胞間の相互連関の解明:MP細胞、樹状細胞、制御性T細胞の機能連関を明らかにするほか、その組織学的関係性についても解析し、MP細胞を取り巻く免疫細胞ネットワークの解明を目指す。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
Int Immunol
巻: 34 ページ: 189-196
10.1093/intimm/dxab108
Cold Spring Harb Perspect Biol
巻: 13 ページ: a037879
10.1101/cshperspect.a037879