研究課題
CD4 Tリンパ球は外来抗原特異的獲得免疫反応に必須の細胞である。これに対し我々は、同細胞中の一分画として、Tリンパ球であるにも拘わらず自然免疫機能を発揮しうる「メモリー表現型細胞(MP細胞)」を報告した(Sci Immunol 2017, Nat Commun 2020)。同報告に基き、本研究では米国立衛生研究所(NIH)と共同研究を行うことにより、MP細胞の質的特異性、分化・活性化機構、自己免疫活性を明らかにし、同細胞の鑑別マーカーや同細胞を取り巻く免疫細胞ネットワークを究明することを目的とした。本年度の国際共同研究の結果、MP細胞の鑑別マーカーとしてIL-7 receptor alpha (IL-7Ra)、Sca1、Bcl2の3分子が同定された。また、これらのマーカーを用いてMP細胞自身が4分画に分類され、うちIL-7Ra+ Sca1+分画がMP細胞の自然免疫機能の主軸を担うことが明らかになった。一方、同分画は制御性T細胞の非存在下においてIL-12依存的に炎症を惹起する潜在性を有することも判明した。我々は本年度、上記の研究結果の論文発表を行った(Front Immunol 2022)。これらの研究結果を踏まえ、次年度はMP細胞の基礎的性質を規定するシグナルの同定、全身炎症惹起メカニズムの解明、同細胞と制御性T細胞との細胞間相互作用の解析などを施行し、MP細胞を取り巻く免疫細胞ネットワークの全容を解明する予定である。
2: おおむね順調に進展している
(I) MP細胞の質的特異性の解明:Kwang Soon Kim、Jonathan Sprent両博士との共同研究により、MP細胞の絶対数、増殖・生存状態、TCR repertoire complexityなどをspecific pathogen-free、germ-free、antigen-freeマウス間で比較した結果、MP細胞は外来抗原非存在下においても十分量産生されること、すなわち同細胞が自己抗原依存的に産生維持されることが明らかになった(Front Immunol 2022)。(II) MP細胞の分化・活性化機構の究明:抗原刺激非存在下、MP細胞がIL-12/18/2に応答して炎症性サイトカインIFN-gを産生することが明らかになった。一方、定常状態下においてIL-17産生性MP細胞は殆ど検出されないが、Jinfang Zhu博士の開発した転写因子レポーターマウスを用いた共同研究により、リンパ球減少状態下では同産生が著明に亢進することが判明した(投稿中)。(III) MP細胞による自己免疫疾患発症機構の推究:上記のレポーターマウスを用いたZhu博士との共同研究の結果、Rag2 KOマウスにおいてMP細胞がTbet(+) MP1、Rorgt(+) MP17などに分化し全身炎症を惹起しうる可能性が提起された(投稿中)。(IV) MP細胞を特定しうるマーカーの同定:Alan Sher博士、Sprent博士、Kim博士との共同研究の結果、MP細胞が外来抗原特異的メモリー細胞とは異なりIL-7Ra、Sca1、Bcl2を低発現すること、すなわち両者が表現型上異なる存在であることが明らかになった(Front Immunol 2022)。本知見は、MP細胞が標準的なメモリー細胞とは質的に異なることの証左であるものと考えられる。
(I) MP細胞の質的特異性の解明、(II) MP細胞の分化・活性化機構の究明:Zhu博士の転写因子レポーターマウスを用いた解析の結果、定常状態下においてMP細胞は主に未分化Tbet(-)、Th1型Tbet(+)の2分画に分類されることが分かった。次年度はNIHとの共同研究を継続し、これらの分画のTCR deep sequenceを施行することにより、各分化段階におけるMP細胞のTCRの特徴を明らかにする。(III) MP細胞による自己免疫疾患発症機構の推究:上記のZhu博士のレポーターマウスを用い、未分化ならびにTh1型MP細胞の炎症原性をリンパ球減少状態下において明らかにするとともに、これらとTh2/17/reg分化との関連性についても明らかにする。同様の解析を定常状態下においても施行する。(IV) MP細胞を特定しうるマーカーの同定:本年度の結果、MP細胞においてはIL-7 - Bcl2シグナルが減弱していることが明らかになった。そこで、同シグナルがMP/メモリー細胞の運命を決定するかどうかを明らかにするために、Bcl2トランスジェニックマウスやコンディショナルノックアウトマウスを用いて各種移入実験や感染実験を行う。(V) MP細胞 - 周辺細胞間の相互連関の解明:リンパ球減少状態下においてMP細胞の過剰活性化が見られたことから、定常状態下においては同細胞が制御性T細胞等により抑制されている可能性が示唆される。次年度は本仮説をFoxp3-DTRマウス等を用いて明らかにする。
すべて 2023 2022
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 2件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
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