研究実績の概要 |
本年度は、ミクログリアのP2Y6受容体欠損による組織レベルの変化について検討を進めた。P2Y6受容体欠損マウスは加齢依存的に緑内障症状を示し、網膜神経節細胞の変性を生じる。ミクログリアと神経変性をつなぐ分子メカニズムとしてオートファジーに着目した(Qin et al. Brain Behav Immun 2021)。過去の報告から、単球ではP2Y6受容体がオートファジー制御に関わる事が示されている(Obba et al. Blood 2014)ことから, これらの遺伝子に着目して解析を行った。P2Y6受容体欠損マウスの網膜や視神経乳頭部ではオートファジー関連遺伝子群の多くが変化していた。特に、Class III PI3K Complex関連遺伝子群(Uvra, Becn, p150, Pik3c)の発現低下が認められ、ミクログリアのオートファジー機能異常の可能性が考えられた。昨年度、Colony Stimulating Factor 1 (CSF1)受容体に対する拮抗薬であるPLX5622を投与してP2Y6受容体欠損マウスからミクログリアをリセットすると、網膜や視神経乳頭部の細胞老化遺伝子群の発現が低下する事を見出したが、オートファジー遺伝子群ではミクログリアのリセットに伴って発現が回復した。細胞老化はリソソームの機能異常がその特徴の1つであるため、P2Y6受容体はオートファジー機能障害を介して細胞老化を誘導する可能性が考えられた。一方、オートファジーを抑制的に制御するmTOR関連遺伝子群(Akt, Mtor, Rptorなど)は発現上昇しており、ERストレスが亢進している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの結果、網膜や視神経乳頭部においてP2Y6受容体を発現する主な細胞はミクログリアであると考えられた。当初、我々が過去に報告したようにP2Y6受容体がミクログリアの貪食を制御する(Koizumi et al. Nature 2007)、と予想して貪食関連遺伝子群 (Mertk, Megf10, Gulp1, Abca1, Axl, Tyro3)の発現変化を検討したものの、網膜ではP2Y6受容体欠損によってこれらの遺伝子群の変化は認められず、P2Y6受容体は貪食以外の機能制御に関わるものと考えられた。オートファジーの異常はミクログリアの加齢依存的な機能変化や炎症惹起、各種神経変性疾患に関与する事(Plaza-Zabala et al. Int J Mol Sci 2017)や、単球のP2Y6受容体がオートファジー制御に関わる事(Obba et al. Blood 2014)などから、P2Y6受容体欠損マウス網膜や視神経乳頭部でのオートファジー関連遺伝子群が大きく変化する事、多くの場合遺伝子発現が低下している事から、P2Y6受容体はオートファジーを正に制御し、その機能低下はオートファジー機能低下につながると考えられた。
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