研究課題/領域番号 |
21000001
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
井上 邦雄 東北大学, ニュートリノ科学研究センター, 教授 (10242166)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 二重ベータ崩壊 / ニュートリノ / 素粒子実験 / 極低放射能環境 / レプトン数の破れ |
研究概要 |
主として、以下の5点を実施した。 (a) ニュートリノを伴う二重ベータ崩壊(2ν2β)寿命の精密測定を行い、38.6 kg・yrの観測から、Xe-136の2ν2β半減期 2.30±0.02(統計)±0.12(系統)×10^21年を得た。世界最高精度であるとともに、過去の5倍以上矛盾する測定に対して決着をつけた。 (b) マヨロンを伴う崩壊の探索を行い、過去の直接探索感度を大幅向上し、90%信頼度でマヨロン結合常数0.8~1.6×10^-5以下を与えた。超新星からの間接的制限とあわせて、逆階層構造でのニュートリノを伴わない二重ベータ崩壊(0ν2β)探索においてその影響は無視できることを示した。 (c) 0ν2βの探索を行い、89.5 kg・yr という世界最高統計での探索から、90%信頼度で0ν2β半減期1.9×10^25年以上と制限した。マヨラナ有効質量換算で160~330 meV以下となり、全核種を含めて世界最高感度となる。同核種を使うEXO-200との統合解析も行い、120~250 meV以下の制限と、Ge-76で0ν2β発見したとするKKクレイムの97.5%の信頼度での排除に成功した。 (d) 低原子炉運転状態での反ニュートリノ観測を行い、良質の地球反ニュートリノ116+28-27事象を観測し、Th/U比に初めて上限を与えた。また、地球内原子炉仮説に対して、90%信頼度で3.1TW以下と最も厳しい制限を与えた。原始の熱の残存の証明に加えて、より詳細な地球モデル選別が始まっている。 (e) 主要バックグラウンドをAg-110mと特定し、蒸留を中心としたXe含有液体シンチレータの純化により、実験開始当初と比べて10分の1以下にバックグラウンドを低減した。さらなる純化を継続する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初計画では、2012年に観測を開始し、研究期間内にKKクレイムを検証し100meV程度のマヨラナ有効質量の感度に到達すること、さらに期間後も観測を継続して5年で60meV程度の感度に達する環境を整えることを目標としていた。効率的に開発を進めることで、2011年に前倒しで観測を開始し、既に統合解析で120meVの感度に達成するとともに、KKクレイムの排除を実現している。また、主要バックグラウンドの特定にも成功し、実効的な純化方法を確立して着実に純化を進めており、キセノンの調達量も含めて60meVを視野に入れた環境がほぼ整っている。さらなる高感度化のための開発も進んでおり、期待以上の成果といえる。 また、本研究は、反ニュートリノ観測を継続できることを特徴としているが、震災の影響で原子炉が停止していることもあり、良質の地球反ニュートリノ観測が実現した。地球科学において特に重要な地球内部での放射性熱生成量を測定することに成功し、地表での熱量と比較することで原始の熱の残存を示したほか、地球モデルに対する実効的な制限や、地球内原子炉仮説に対する厳しい制限を得るなど、これらの点でも期待以上の成果を得ている。
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今後の研究の推進方策 |
液体シンチレータおよびキセノンガスに対する蒸留はバックグラウンドの除去に有効であることがわかったので、さらに10分の1程度のバックグラウンドの低減を実施する。これにより、80meV程度の感度を実現する。観測と並行して、低放射能ミニバルーンの製作を行い、キセノン量を600kg超に増量して導入することで40~60meV程度の縮退構造をカバーする感度を実現する。 同時に、飛躍的にバックグラウンドを低減し、感度を向上するための、集光ミラー・高発光液体シンチレータ・高量子効率光センサー・発光フィルム・超高感度撮像装置などの開発を行い、逆階層構造をカバーする20meV程度の感度を目指す。また、最大限の物理成果を得るため、原子炉や地球反ニュートリノ観測を継続するとともに、第4世代ニュートリノ探索のための反ニュートリノ源の開発や、暗黒物質の季節変動検証のための高純度NaI結晶の量産化開発などを実施し、極低放射能科学を推進する。
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