研究課題/領域番号 |
21000003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 広文 東京大学, 大学院・理学系研究科, 准教授 (20322034)
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キーワード | 原子・分子物理 / 高性能レーザー / 配列・配向分子 / 高次高調波発生 / 搬送波包絡位相 / 再衝突電子 / 六極集束器 / 分子偏向器 |
研究概要 |
本研究では、全く新しい分子配向制御技術を開発するとともに、配向した分子試料を用いた一連の研究により「分子の新しい量子相の物理学」を開拓することを目的としている。 (1)分子配向制御技術の高度化に関しては、分子偏向器で回転量子状態を選別したC_6H_5I分子を試料とし、静電場とレーザー電場を併用する手法により、それらの利用可能な強度で世界最高レベルの配向度を達成することに成功した。今後、量子状態を選別した分子試料を用い、静電場とレーザー電場を併用する手法にプラズマシャッター技術を適用し、レーザー電場の存在しない条件下で高い配向度をもつ1次元的、及び3次元的配向制御を実現する。次いで非共鳴2波長レーザー電場にプラズマシャッター技術を適用し、完全にフィールドフリーな条件下で1次元的、及び3次元的配向制御の実現を目指す。これらはいずれも世界初の成果となる。 (2)時間位置敏感型のいわゆる3次元検出器を用い、電子とイオンの両方を多重同時計測できる3次元運動量画像分光装置を開発した。今後、配列あるいは配向した分子試料を用い、トンネルイオン化の配列・配向依存性を明らかにすることを始めとし、非段階的二重イオン化などの「分子内電子の立体ダイナミクス研究」への展開を図る。 (3)前年度に新たに設計・製作した真空装置内に集光系を設置した高調波発生装置の立ち上げを行った上で、搬送波包絡位相(CEP)の制御された数サイクルパルスを高次高調波発生に適用し、高調波発生過程における分子の配列依存性とCEP依存性を同時に明らかにする実験を世界に先駆けて進めている。 (4)非断熱的に配列したN_2,O_2,及びCO_2分子中から発生する第3高調波の偏光状態がプローブ光の楕円率を増加させたときにどのように変化するかを詳細に調べた。最高被占分子軌道の対称性によって偏光状態の変化の仕方が異なることなどを初めて見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子配向制御技術の高度化については、レーザー電場の存在しない条件下で高い配向度をもつ1次元的、及び3次元的配向制御の実現と完全にフィールドフリーな条件下での1次元的、及び3次元的配向制御の実現が平成24年度中に見込める状況となっており、当初の計画以上に進展していると言える。「分子内電子の立体ダイナミクス研究」に関しては、配向した分子中からの高次高調波の観測には至っていないものの、本年度電子・イオン多重同時計測3次元運動量画像分光装置を開発したので、本装置を用いた実験については順次データを取得すればよい状況となっている。したがって、研究全体としては「(2)おおむね順調に進展している。」と評価する、
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今後の研究の推進方策 |
(1)分子配向制御技術の高度化については、量子状態を選別した分子試料を用い、静電場とレーザー電場を併用する手法にプラズマシャッター技術を適用し、レーザー電場の存在しない条件下で高い配向度をもつ1次元的、及び3次元的配向制御を実現する。次いで非共鳴2波長レーザー電場にプラズマシャッター技術を適用し、完全にフィールドフリーな条件下で1次元的、及び3次元的配向制御の実現を目指す。これらはいずれも世界初の成果となる。 (2)本年度開発した電子・イオン多重同時計測3次元運動量画像分光装置を用い、配列あるいは配向した分子を試料とし、トンネルイオン化の配列・配向依存性を明らかにすることを始めとし、非段階的二重イオン化などの「分子内電子の立体ダイナミクス研究」を推進する。 (3)配向した分子中からの高次高調波の観測と物理過程の解明については、配向分子の生成にフェムト秒2波長レーザー電場を用いる手法を採用する。偶数次高調波の観測は分子試料が配向していることを示す必要条件であるが、フェムト秒2波長レーザー電場で回転波束を生成した場合には、十分条件ではない可能性がある。マクロな分子試料として本当に配向しているかどうかを電子・イオン多重同時計測3次元運動量画像分光装置を用いて検証する。
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