研究課題/領域番号 |
21000003
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
酒井 広文 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (20322034)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 原子・分子物理 / 高性能レーザー / 配列・配向分子 / 高次高調波発生 / 搬送波包絡位相 / 分子偏向器 / 六極集束器 / プラズマシャッター |
研究概要 |
(1)分子配向制御技術の開発に関しては、先に開発した分子偏向器を用いて初期回転量子状態を選別した非対称コマ分子(C6H5I)を試料とし、静電場と非共鳴ナノ秒レーザー電場を併用する手法により高い配向度を達成することに成功した。さらに、プラズマシャッター技術を用いてナノ秒レーザーパルスをそのピーク強度付近で急峻に遮断することにより、遮断後の~10 psにわたりレーザー電場の存在しない条件下で高い配向度を維持することに成功した。 (2)非断熱的に配列したN2分子やCO2分子を試料とし、搬送波包絡位相(CEP)を制御した数サイクルパルス(サブ10 fs程度)を基本波とする高次高調波発生実験を行いプラトーからカットオフに近い領域にCEPの相対値に依存して移動する干渉縞を観測することに成功した。高調波スペクトルをフーリエ解析した結果、通常の奇数次高調波成分に加え、いわゆるロングトラジェクトリーとショートトラジェクトリーの寄与からなることを初めて明らかにすることに成功した。 (3)配列・配向した分子試料から発生する高次高調波の観測に基づく分子イメージング技術の高度化のために、従来の強度スペクトルに加え、位相スペクトルも観測する装置を新たに開発した。位相スペクトルの観測は高調波によって希ガス中から発生する光電子の運動量を、時間差を付けて照射する基本波で変調した信号の観測に基づいている。今回、高調波の位相スペクトルの観測では初めて情報量のより豊富な2次元光電子画像化法を採用した。 (4)フェムト秒2波長レーザー光で分子試料を配向させ、配向した分子中から発生する偶数次を含む高次高調波の発生とその物理過程を探究するための光学系の設計を行った。 (5)前年度に開発した電子・イオン多重同時計測運動量画像分光装置に関する予備実験を進め、「分子内電子の立体ダイナミクス」研究に関する実験の遂行に必要な指針を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
気体分子の配向制御に関しては、初期回転量子状態を選別した分子試料を用い、静電場とナノ秒レーザー電場を併用する手法にプラズマシャッター技術を導入し、ナノ秒レーザーパルスの遮断直後にレーザー電場のない条件下で高い配向度をもつ分子試料の生成技術の開発に初めて成功した。レーザーパルスを楕円偏光にすることにより、3次元的な配向制御も可能となるが、その実現はもはや時間の問題となっている。また、非共鳴2波長レーザー電場を用いた配向制御についてもプラズマシャッター技術を既に開発済みであるので、静電場も存在しない完全にフィールドフリーな条件下での配向制御に関しても確実に実現できる見通しとなっている。2波長レーザー電場の偏光を平行にすれば1次元的な配向制御が可能となり、交差させれば3次元的な配向制御が可能になる。これらの課題については、研究期間の前半に分子の初期回転量子状態を選別するための分子偏向器と六極集束器を開発したために、当初の目標よりもはるかに完成度の高い分子配向制御の開発が期待できる状況となっている。 一方、最も高度で洗練された分子イメージング技術の確立に関しては、従来の強度スペクトルに加え、位相スペクトルも観測する装置を新たに開発済みであり、現在実験条件の最適化を進めている。また、できるだけ回転冷却された分子試料をフェムト秒2波長レーザー光で配向させ、配向した分子中から発生する偶数次を含む高次高調波の発生とその物理過程を探究するための光学系の設計を済ませており、実験を遂行するのみとなっている。さらに、電子・イオン多重同時計測運動量画像分光装置を用いた「分子内電子の立体ダイナミクス」研究に関しても、既に実験の遂行に必要な指針を得ている。いずれも明確な戦略に基づいて研究を進めているため、主要な目標の達成は十分に期待できる。したがって、「(2)おおむね順調に進展している。」と評価する。
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今後の研究の推進方策 |
(1)量子状態を選別した分子試料を用い、静電場と楕円偏光したナノ秒レーザー電場を併用し、高い配向度をもつ3次元配向を実現する。さらに、レーザーパルスをそのピーク強度付近で急峻に遮断することにより、レーザー電場のない条件下での3次元配向を世界で初めて実現する。 (2)量子状態を選別した分子試料を用い、2波長のナノ秒レーザー電場のみを用いる全光学的な手法で高い配向度を実現する。2波長の偏光を平行にすることにより1次元的な配向制御を、交差させることにより3次元的な配向制御を実現する。全光学的な手法による3次元的な配向制御は世界初となる。さらに、レーザーパルスをそのピーク強度付近で急峻に遮断することにより、静電場も存在しない完全にフィールドフリーな条件下での1次元的、及び3次元的な配向制御を世界で初めて実現する。 (3)できるだけ初期回転温度の低い分子試料にポンプ光として2波長のフェムト秒レーザーパルスを照射し、分子の回転周期後にプローブ光としてより強度の高いフェムト秒パルスを照射することにより、通常の奇数次高調波に加え、偶数次高調波の観測を目指す。さらに開発済みの電子・イオン多重同時計測運動量画像分光装置を用い、偶数次高調波の発生が分子試料がマクロに配向していることによるのか否かを明らかにする。 (4)配列・配向した分子試料から発生する高次高調波の強度スペクトルと位相スペクトルを観測し、最も高度で洗練された「超高速分子イメージング」技術を確立する。併せて、異なる波長の基本波を用い、分子内ホールの超高速ダイナミクスの探究を行う。 (5)配列・配向した分子を試料とし、搬送波包絡位相(CEP)を制御した数サイクルパルスを照射してトンネルイオン化とそれに続く非段階的2重イオン化の配列・配向依存性とCEP依存性を同時に明らかにし、「分子内電子の立体ダイナミクス」研究を世界に先駆けて開拓する。
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