研究課題/領域番号 |
21000004
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研究種目 |
特別推進研究
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (20212186)
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研究分担者 |
村上 修一 東京工業大学, 理工学研究科, 教授 (30282685)
熊田 倫雄 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性部, 主任研究員 (30393771)
村木 康二 日本電信電話株式会社NTT物性科学基礎研究所, 量子電子物性部, 主席研究員 (90393769)
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キーワード | 半導体量子構造 / 量子ホール効果 / 単一電子波束 / エッジチャネル / エッジマグネトプラズモン / スピン依存伝導 / ナノエレクトロニクス / 量子スピンホール効果 |
研究概要 |
本研究は、半導体量子ドット・量子ホール効果・スピントロニクスの研究と量子光学の知識を融合し、「半導体量子構造による電子波束のダイナミクス」の研究を推進するものである。単一電子波束の干渉性やスピン依存現象を探求し、多体電子状態の物性測定に応用するとともに、電子波束を用いた新たな応用技術への可能性を追求する。GaAsやグラフェンでの実験研究や、トポロジカル絶縁体での理論研究を中心に研究を進め、下記の成果を得た。 エッジマグネトプラズモン(EMP)伝導に関して、[1]プラズモン群速度の測定により、チャネル内相互作用・ゲート金属の影響・エッジチャンネルの構造などによる著しい速度変調効果を明らかにし、[2]アドミタンス測定によりチャネル間の相互作用を分布容量として定量化することに成功した。さらに、[3]複数の並走するエッジチャネルに対し選択的にEMPを励起する手法や、[4]量子ドットを用いた時間分解のエネルギー分光技術を開拓した。また、[5]グラフェン端のプラズモン伝搬速度をゲート金属の有無やキャリア密度・磁場によって2桁以上に渡り変調できることを明らかにした。また、[6]金属くし形電極によるフォノン共振器を作製・評価し、フォノンによる共振器量子電磁気学への可能性を示唆した。[7]高移動度2次元電子の分数量子ホール特性から電子温度を評価するとともに、3端子三重量子ドット試料測定を通して無冷媒希釈冷凍機測定系を最適化した。理論研究では、[8]トポロジカル絶縁体の表面に円偏光を照射したときに静的に磁化が現れる「逆ファラデー効果」を計算し、フェルミエネルギーや光の周波数に比例することを明らかにした。また、[9]2種の強磁性絶縁体を周期的に組み合わせたマグノニック結晶は、量子ホール系と同様のトポロジカルな相となりトポロジカルなカイラルエッジ状態が現れることを理論的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個々の研究テーマによって進展に差があるが、研究遂行上に見出した現象などを含めて、順調に研究が進展しており、およそ予定通りの成果が見込まれると考えている。 「電子波束の測定技術の確立」に対しては、遅延制御やビームスプリッターに関する技術を確立し、群速度などの基礎物性、周波数変換・共振器への応用などの成果を得ている。相関測定・量子雑音測定に関する研究が立ち上がりつつあり、1次相関・2次相関測定技術を準備中である。また、「高精度・短時間波束制御技術の確立」に向けて、素子の非線形性に起因する高調波発生や周波数混合などの成果を上げた。「量子ホール状態の物性測定」では、GaAs系やグラフェン系でのプラズモン速度などで多くの成果に至っている。特に、複数チャネル間の相互作用パラメータの空間分布に関する成果など、顕著な成果を得ている。分数量子ホール領域においては、占有率5/2状態を明瞭に観測するに至っており、世界のトップレベルの高移動度電子系を作製することに成功した。「電子スピン波束の生成と制御」では、量子ホール系と類似のトポロジカルなモードを探索する計画が具体化し、マグノニック結晶によりトポロジカルなカイラルエッジ状態が実現するという理論的成果を得た。さらに、二重量子ドット中や三重量子ドット中での電子スピン制御に関する研究にも幅を広げた実験研究を行なっている。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた1次相関・2次相関測定技術を確立し、電荷ダイナミクスの手法によって電子間相互作用による影響を調べる。干渉性に優れた微小干渉計を設計・製作し、極低温における電子波干渉実験を計画している。また、量子ホールエッジチャネルは、人工的な朝永ラッティンジャー流体モデルとして理解することができる。逆方向または同方向に伝搬するエッジチャネルを近接して結合したチャネルを設計・製作し、朝永ラッティンジャーモデルで予測されている電荷分断化現象や、電荷スピン分離などの一次元系特有の現象を時間軸または周波数軸の測定によって明らかにしてゆく。さらに、時間分解分光測定技術の確立により、電子の緩和現象や熱輸送に関する問題にアプローチしてゆく。量子ドットによる局所スペクトル測定の原理を提案し、実験的に検証する計画である。さらに、GaAs系とグラフェン系で見られるプラズモン特性について系統的な研究を行う計画である。フェルミ電子系とディラック電子系による差異や、試料端での閉じ込めポテンシャル形状の違いによる効果を明らかにする計画である。これらの研究によって「半導体量子構造による電子波束のダイナミクス」の研究を推進する。
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