研究課題/領域番号 |
21000004
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
藤澤 利正 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 教授 (20212186)
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研究分担者 |
村木 康二 日本電信電話株式会社NTT物性研究所, 量子電子物性部, 主幹研究員 (90393769)
熊田 倫雄 日本電信電話株式会社NTT物性研究所, 量子電子物性部, 主任研究員 (30393771)
村上 修一 東京工業大学, 大学院理工学研究科, 教授 (30282685)
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研究期間 (年度) |
2009-05-08 – 2014-03-31
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キーワード | メゾスコピック系 / 半導体物性 |
研究概要 |
本研究は、半導体量子ドット・量子ホール・スピントロニクスの研究と量子光学の知識を融合し、「半導体量子構造による電子波束のダイナミクス」の研究を推進するものである。単一電子波束やプラズモンの干渉性、スピン依存現象を探求し、多体電子状態の物性測定に応用するとともに、電子波束を用いた新たな応用技術への可能性を迫求する。GaAsやグラフェンでの実験研究や、トポロジカル絶縁体での理論研究を中心に研究を進め、下記の成果を得た。 [1]量子ホールエッジチャネルを近接した系を作製し、人工的な朝永ラッティンジャー流体を形成することにより、相互作用領域と非相互作用領域の境界で発生する電荷分断化現象を時間分解測定により観測した。[2]量子ドットを用いたエネルギー分光測定により、人工的な朝永ラッティンジャー流体におけるエネルギー輸送について調べ、2成分のエネルギー分布をもつ非平衡状態が10μm程度の距離に渡って安定に存在することを示した。[3]局所的な分数量子ホール状態を実現し、相互相関雑音測定によって、整数エッジチャネル間にもかかわらず分数電荷のトンネル過程を観測した。[4]電子密度を変調することによりグラフェンの力学インダクタンスを空間的に制御し、プラズモンのガイディングやルーティングを実現した。[5] 3端子三重量子ドットの少数電子領域における伝導測定により、この系における電荷再配置効果を見出した。[6] 2種の強磁性絶縁体を周期的に組み合わせたマグノニック結晶について、量子ホール系と同様のトポロジカルな状態をスピン波(マグノン)で実現可能性について理論提案を行い、ベリー曲率による熱ホール効果の理論を構築した。[7]トポロジカル絶縁体などのエッジ状態・表面状態をデザインする方法について異方性や超格子構造に関して理論的考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
個々の研究テーマによって進展に差があるが、研究遂行上に見い出した現象などを含めて、順調に研究が進展しており、およそ予定通りの成果が見込まれると考えている。4つの目標に対する進捗は以下のとおりである。 「電子波束の測定技術の確立」に対しては、遅延制御やビームスプリッター等の技術を確立し、GaAs系やグラフェンでの基礎物性の評価や、周波数変換・共振器への応用の成果を得ている。相関測定・量子雑音測定に関する研究が立ち上がり、局所分数量子ホール状態による分数電荷トンネル過程の観測に成功した。 「高精度・短時間波束制御技術の確立」に向けて、素子の非線形性に起因する高調波発生や周波数混合などの成果を上げた。グラフェン中のシートプラズモンに対するガイディング、ルーティング技術を確立した。 「量子ホール状態の物性測定」では、GaAs系やグラフェン系でのプラズモン速度などで多くの成果に至っている。特に、対向するチャネルを結合することにより、朝永ラッティンジャー流体に特有の電荷分断化現象を検証したことは物理的な意義が大きい。複数チャネル間の相互作用パラメータを扱うことができるカイラル分布定数モデルを構築し、様々な集積化素子への発展を可能にした。エネルギー分光測定により著しい非平衡状態が準安定に存在することを示した結果は目新しい。さらに、占有率5/2状態を明瞭に観測できる分数量子ホール試料など、世界のトップレベルの高移動度電子系を作製することにも成功している。 「電子スピン波束の生成と制御」量子ホール効果とのアナロジーを用いて、磁性体中のマグノン(スピン波)でトポロジカルエッジ状態を作る方法を理論的に提案した。磁性体に人工的に周期構造を導入しマグノニック結晶を作ると、磁性体の双極子相互作用によりトポロジカルな相が実現できることを2つの模型を用いて示すとともに、どのような場合にトポロジカルになりうるかを、強く束縛された電子の系とのアナロジーを用いて物理的に解釈した。さらに、二重量子ドット中や三重量子ドット中での電子スピン制御や核スピン制御に関する研究にも成功している。
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今後の研究の推進方策 |
量子ホールエッジチャネルを結合することにより、スピン電荷分離や、スピンフルの朝永ラッティンジャーモデル、さらに長距離で結合するプラズモンの挙動などを調べることにより、朝永ラッティンジャー流体の性質を明らかにするとともに、プラズモン回路の発展性を探求する。相互作用雑音測定を用いて、電子・プラズモン・エニオンなどの量子統計性に注目した実験を進めてゆく。 トポロジカルマグノニック結晶については、量子ホール系とのアナロジーなどを用いて、引き続き実際の磁性体での実現方法や実験での観測方法を提案する。数値計算により有望なマグノニック結晶の構造の提案・エッジ状態の物理的性質の追究をも行う。それと並行して、電子系で提案されているような他の種類のトポロジカル相の実現について理論面から検討する。またトポロジカル絶縁体についても、界面や超格子で起こる表面状態の混成の仕方や結果として出現する状態について、特異な状態が出現する可能性を模索し、トポロジーや対称性の見地から理論的に論ずる。
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