研究課題
特別推進研究
研究項目(1) スパイン増大は2光子グルタミン酸法によって容易に誘発できたが単一スパインを刺激した場合の収縮の誘発が困難であり、これがスパイン可塑性の理解を妨げてきた。我々はグルタミン酸とGABAの2色アンケイジング法を開発してきたが、偶然、スパイク発生時点でGABAをアンケイジすることで、著しいスパイン収縮が誘発されることがわかった。この効果はGABAA受容体を介している。こうして確実に誘発できるようになった収縮は、増大と異なり側方に広がり、増大と競合した。これらはシナプス競合がしばしばGABAA依存的であることをよく説明する。(2,3) PA-低分子量G蛋白質を用いたスパイン形態可塑性の誘発法を種々試し、条件によっては光刺激で著しい収縮除去が誘発される条件を見いだしている。(4) 個体覚醒動物がタスク試行中の単一スパインの形態可塑性を観察するために、共振スキャナーと3次元画像処理法を開発した。視野に移動格子を提示したときなどにスパインの増大が一過性に起きることが観察されるようになった。(5) 精神障害モデル動物のスパインの形態異常を明らかにするために、長期的に脳表面に慢性的に送液するデバイスを製作して長期的にスパイン動態の観察をできるようにした。長期観察すると活動依存的可塑性阻害剤の存在下にもスパイン生成消滅が起きることが明らかとなってきた。(6)開口放出機構の可視化に、SNARE蛋白質を用いたFRETが有効に用いることができることを明らかいしてきたが、2光子FRET/FLIM法を用いることによって、SNAREの分子間相互作用を見ることにより、trans-SNAREとcis-SNAREが識別されることなど、定量的な情報が得られることがわかってきた。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題においては、大脳機能理解の鍵を握る、スパインシナプス研究を次のステップに進めるために、困難な壁を破ろうとして企画されており、技術開発を行いながれら進めているので、その進みは速いとは言えない。しかしながら、目標を達成するための突破口が各研究項目ともに、確実に拓いてきた。たとえば、スパイン収縮・除去に関する最も基本的で困難な問題を我々は解いたと考えている。光刺激で個体動物でシナプスを系統的に改変する技術に初めて到達している。タスク試行中の個体覚醒動物で単一スパインの形態可塑性を可視化する技術も世界初である。開口放出の準備状態をエンジンとなる蛋白質であるSNAREによって検出する基礎技術にも初めて到達している。このように、本研究は、真の展開を目指して、今後が楽しみな段階を迎えている。
研究項目(1) については、GABAA受容体の関与をより明らかにするために、収縮のカルシウム基盤を解明する。また、増大と収縮がうまく競合し得るメカニズムを明らかにする。増大については大枠は解明したので、残りの収縮の解明でスパイン可塑性の骨子がわかるようになると考えられる。 (2,3) PA-低分子量G蛋白質を学習の起きたスパインで特異的に発現するように改変して、学習記憶に関係したスパインを標識するだけでなく、それを光で除去した時の動物の行動変化を観察し、大脳皮質で記憶を担うスパインの実態を操作的に明らかにする道を拓く。(4) 個体覚醒動物がタスク試行中に観察される速いスパインの形態可塑性の基盤にあるカルシウムシグナルを測定し、形態可塑性の回路的な基盤を固める。(5) 送液デバイスを製作して、精神遅滞モデル動物および統合失調症モデル動物のスパイン動態を定量化する。(6)シナプスとベータ細胞を比較することにより、速い開口放出に特徴的なSNARE蛋白質の複合化機構を明らかにする。また、スパイン頭部増大のシナプス前部開口放出に及ぼす物理的な効果について検討を進める。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (7件) (うち招待講演 5件)
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