研究課題
本年度はプロテアソーム研究を中心に下記の5課題について長足の進展があった。(1)プロテアソームの動態と作動機構に関する研究:プロテアソームがユビキチン化タンパク質を捕捉する機構として二つのユビキチンリセプター(Rpn10とRpn13)の存在が知られているが、これらの欠損変異酵素を用いた極低温電子顕微鏡観察(単粒子解析)によりその位置を特定した。さらにプロテアソームの分子集合因子Hsm3とNas2の立体構造をX線結晶構造解析で解明した。またプロテアソームによる分解が細胞極性や細胞の障害治癒に関与することを突き止めた。更にanchor-away 技法を用いて細胞質プロテアソームが酵母細胞の増殖に必須でないことも見出した(核プロテアソームは増殖に不可欠)。(2)胸腺プロテアソームの研究:β5tを胸腺以外に全身で発現するTgマウスを作製すると、全身性の障害が出ることを見出した。(3)PINK1・Parkin研究:家族性パーキンソン病の原因遺伝子であるPINK1とParkinが介在したミトコンドリアの品質管理(選択的オートファジーによる損傷ミトコンドリアのクリアランス/浄化)機構、とくにPINK1とParkinのリン酸化を介した活性化機構が、初代培養ニューロン(神経細胞)でも作動していることを見出した。(4)ユビキチン研究:8種類のユビキチン鎖の種類、長さ、複雑さを高感度質量分析で解析する手法を確立した。(5)オートファジー研究:我々は既にオートファジー選択的基質であるp62がKeap1(酸化ストレス応答ユビキチンリガーゼ)に直接会合して(抗酸化/解毒応答)マスター転写因子Nrf2をKeap1から解離・(核移行)活性化する新しいストレス応答機構を報告したが、今回、p62と相互作用するKeap1のリン酸化部位を特定し、その相互作用が100倍程度上昇するメカニズムを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
我々のプロテアソーム研究に関しては、構造と機能の研究を中心に生理・病態に関する包括的研究を推進してきたが、想定外に進行した研究しては、プロテアソームの形成に拘わる約10種の分子集合因子を発見し、それらの多くの立体構造の解明に成功したことである。さらに約20年前に発見していた免疫プロテアソームが中条-西村症候群(凍瘡様皮疹と限局性脂肪萎縮を伴う遺伝性周期熱症候群)の原因遺伝子であり、その発症メカニズムがβ5i遺伝子変異によるプロテアソームの形成異常にあることを証明するとともに、新規に発見した胸腺ププロテアソームがCD8+Tリンパ球のレパトア形成に必須であること、即ち細胞制免疫における「自己と非自己の識別」に不可欠であることを明らかにした。これらは免疫学の教科書を書き替える発見として分子免疫学の領域で高く評価されている。さらにユビキチンの研究では、家族性パーキンソン病の原因遺伝子であるPINK1とParkinが介在したミトコンドリアの品質管理機構の詳細を解明したこと、またオートファジーの研究では、マウスの遺伝学を駆使してオートファジーの選択的基質であるp62がKeap1(酸化ストレス応答ユビキチンリガーゼ)に直接会合して(抗酸化/解毒応答)マスター転写因子Nrf2を活性化する機構、そしてその破綻が肝細胞ガンを引き起こす分子機構の解明に成功した。これらの研究に関して、これまで4年間の研究期間内に約70編の英文原著論文(Cell 4報、Nature 2報等を含む)と約15編(Nat Rev Mol Cell Biol 1報等を含む)の英文総説論文を発表してきたことを考えると、当初の計画を上回る飛躍的な研究の推進があったと判断している。また平成24年度の研究推進評価も「A+」の評価を得ている。
今後の研究方針としては、以下の4項目を策定している。(1)26Sプロテアソームの構造解析と動態・作動機構の解明:ATPaseリング複合体やRP複合体の高次構造解明というプロテアソーム研究に残された最大の課題に取り組むとともに、ATPストレスに応答して可逆的に形成されるプロテアソーム顆粒についての機構と意義の解明を目指す。(2)26Sプロテアソームの形成機構の解明:これまでに約10種類の分子集合シャペロン群を世界に先駆けて発見、そのほとんどの立体構造解析にも成功して「シャペロン依存性のプロテアソーム分子集合機構」という新概念を提唱したが、最近、細胞のストレス応答に関与するコンベンショナルな分子シャペロンBag6がその上流で作用していることを発見したので、この成果を基軸に分子集合機構の全体像を明らかにする。(3)胸腺プロテアソームの分子免疫学的研究:既に胸腺プロテアソームが正の選択を誘導することによってCD8+Tリンパ球のレパトア形成に必須であることを明らかにしたが、この研究には、未解決な課題が山積している。その核心の一つは、胸腺プロテアソームが生成し正の選択を誘導する抗原ペプチドの同定である。本研究では「自己と非自己の識別機構」解明という免疫学の基本原理に迫る研究に果敢に取り組むと同時に、胸腺プロテアソームの破綻より発症する疾病の解明や移植免疫への応用に関するテーマも視野に入れた大胆な発想で新しい免疫学の創成に挑む。(4)プロテアソームによる品質管理の解明から神経変性疾患の発症機構解明に迫る研究:本研究では、これまで全く謎であった「封入体形成の機序」と「封入体に含まれるユビキチンの意味」の解明を目指す。またPINK1(蛋白質リン酸化酵素)とParkin(ユビキチン連結酵素)の動態解明からミトコンドリアの品質管理機構を明らかにし、パーキンソン病の発症機構解明に迫る。
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