本研究では、極めて限局された脳部位特異的に遺伝子機能を低下させたマウスの作製法を確立し、それを脳機能解析に応用することを目的としている。我々はその一環として、扁桃体特異的に遺伝子発現を抑制する遺伝子改変マウスの作製を試みている。扁桃体は恐怖・情動の中枢であり、この部位のシナプス可塑性は恐怖学習等に関わる事が知られているが、機能的に未知の部分は多い。扁桃体に比較的特異的に発現する遺伝子については、GRP遺伝子を含む複数の報告があるが、扁桃体以外における発現が散見され、その発現特異性は十分とは言えない。そこで我々は、このGRP遺伝子にα CamKII遺伝子のプロモーターを組み合わせる。これら二つのプロモーターは、共に扁桃体に発現するがそれ以外の部分ではほとんど共発現する部分が無い。また、αCamKII遺伝子プロモーターを用いたトランスジェニックマウスは生後2週以降に発現するケースが多く報告されている。従ってこれら二つのプロモーターが機能する部位のみで遺伝子発現が抑制されれば、生後2週以降且つ極めて高い扁桃体特異性が期待される。当年度、我々はGRP遺伝子プロモーターの下でCre recombinase依存的にNMDA受容体ターゲットのmiRNAを発現するノックインマウスを作製し終え、あらかじめ譲り受けていたαCamKIIプロモーター-Cre発現マウスとの交配が完了した。そして現在、このマウスの発現特異性についてリアルタイムPCR、in-situ hybridization等を用いた解析を行っている。扁桃体特異的な発現が確認された後は、電気生理・行動学的な解析を行い、扁桃体における興奮性シナプスにおけるNMDA受容体の役割について検討していく予定である。
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