軸索ガイダンス分子Lysophosphatidylglucoside(LysoPtdGlc)の受容体を同定した。温痛覚を担う脊髄後根神経節神経細胞(TrkA陽性細胞)の軸索が、細胞外培養液中に作製したLysoPtdGlcの濃度勾配により反発されるが、この反発性ガイダンスがGタンパク質共役型受容体(GPCR)のシグナル伝達阻害ペプチドにより消失することから、LysoPtdGlc受容体はGPCRであるとの仮説に基づき網羅的解析を行った。その結果、LysoPtdGlc受容体として細胞内シグナルを生成するGPCRを特定する事に成功した(東北大学の青木淳賢教授との共同研究)。LysoPtdGlcは、野生型マウス由来のTrkA陽性脊髄後根神経節神経細胞の軸索を反発したが、受容体ノックアウトマウス由来の神経軸索の伸長には影響をおよぼさなかった。さらに、LysoPtdGlcによる反発性ガイダンスを阻害するアンタゴニストを探索した結果、培養液中にアセチル化LysoPtdGlcを添加するとLysoPtdGlcによる反発性ガイダンスが消失することを確認し、アセチル化LysoPtdGlcがアンタゴニストとして機能することを示唆する実験結果を得た(理化学研究所の平林義雄チームリーダーとの共同研究)。アセチル化LysoPtdGlcは生体内の神経組織から検出可能なLysoPtdGlc誘導体であり、生体内でリガンド(LysoPtdGlc)がアンタゴニスト(アセチル型LysoPtdGlc)に変換されるという新たなメカニズムの存在が示唆された。また、Lysophosphatidylinositolによる軸索ガイダンスの細胞内メカニズムを研究し、カルシウムイオンシグナル(特にイノシトール3リン酸受容体からのカルシウムイオン放出)がガイダンスに必要であることを発見した。
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