嗅覚は、動物の進化の過程で最も古くから存在し、生命維持のために必要な行動に直接関与する重要な感覚である。ヒトやマウスの嗅覚受容体(odorant receptor : OR)遺伝子は、系統発生学的に水棲型ORと陸棲型ORの2つのサブファミリーに分類される。水棲型ORは魚類ORに類似していることから、これまで進化の名残と考えられ、嗅覚研究の対象は主に陸棲型ORが中心となってきた。近年のゲノム解析の進展によって、水棲型ORが魚類からヒトに至るほぼすべての脊椎動物で維持されていることなどが明らかとなり、水棲型ORが何らかの重要な生理機能を持つことが示唆されている。本研究課題では水棲型ORが認識する外部環境を明らかにし、水棲型ORおよびそのリガンドの生理機能を解明することを目的としている。平成21年度においては、研究計画に従い、水棲型ORのリガンド同定のためのアッセイ系の確立を行った。アッセイ系は、即時型遺伝子であるc-fosの発現を指標にした組織化学的方法およびカルシウムイメージングによる方法を確立した。本アッセイ系を用いて、水棲型ORが感知すると予想される水溶性匂い分子の探索と応答遺伝子の同定を開始した。
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