嗅覚は、動物の進化の過程で最も古くから存在し、生命維持のために必要な行動に直接関与する重要な感覚である。ヒトやマウスの嗅覚受容体(odorant receptor : OR)遺伝子は、系統発生学的に水棲型ORと陸棲型ORの2つのサブファミリーに分類される。水棲型ORは魚類ORに類似していることから、これまで進化の名残と考えられ、嗅覚研究の対象は主に陸棲型ORが中心となってきた。近年のゲノム解析の進展によって、水棲型ORが魚類からヒトに至るほぼすべての脊椎動物で維持されていることなどが明らかとなり、水棲型ORが何らかの重要な生理機能を持つことが示唆されている。本研究課題では水棲型ORが認識する外部環境を明らかにし、水棲型ORおよびそのリガンドの生理機能を解明することを目的としている。平成22年度においては、即時型遺伝子であるc-fosの発現を指標にした組織化学的方法によって、水棲型ORのリガンド候補分子を含む生理活性物質に反応する嗅神経細胞が存在することを確認した。今後液体クロマトグラフィーによって、それらの成分の精製を進めて行く予定である。さらに特定の水棲型ORのリガンド同定を容易にするために、特定の水棲型OR遺伝子発現細胞をGFP(緑色タンパク質)によって可視化することのできるトランスジェニックマウス系統を開始した。これまでにトランスジーンを作製し、トランスジェニックマウス系統を樹立している。今後、これらのトランスジェニックマウスにおけるトランスジーンの発現を確認し、これらのマウスを用いたリガンド探索も開始する予定である。
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