嗅覚は、動物の進化の過程で最も古くから存在し、生命維持のために必要な行動に直接関与する重要な感覚である。ヒトやマウスの嗅覚受容体(odorant receptor: OR) 遺伝子は、系統発生学的にClass I とClass II OR の2つのサブファミリーに分類される。Class I OR は魚類OR に類似していることから、これまで進化の名残と考えられ、嗅覚研究の対象は主にClass II OR が中心となってきた。近年のゲノム解析の進展によって、Class I OR が魚類からヒトに至る ほぼすべての脊椎動物で維持されていることなどが明らかとなり、何らかの重要な生理機能を 持つことが示唆されている。本研究によって、陸棲哺乳動物唯一の水棲環境である羊水に、嗅神経細胞によって感知される匂い分子が存在することをマウス行動学実験、組織化学実験ならびに生理学実験によって明らかにした。また、マウス遺伝学的手法を用い、Class I OR を発現するトランスジェニックマウスの作製に成功した。この成果は、Class I OR 発現制御領域の存在を実証した世界で初めての成功例であり、遺伝子発現制御の解明だけでなく、今後標的とするClass I OR 発現細胞を特異的に可視化することが可能となり、Class I OR のリガンド探索に有用なツールとなる。
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