実際に、TRPV4KOマウスの行動実験をした場合に、解剖形態学的な脳の異常は全く認められないものの、神経活動に異常をきたし、行動異常が観察された。TRPV4KOマウスの行動異常に関わる脳内領域として海馬歯状回を同定した。また、その海馬歯状回において、25℃、30℃、35℃と3段階に厳密に温度制御した条件におけるスライスパッチクランプ実験を行い、野生型と異なりTRPV4KOでは35℃温度条件で神経興奮性が異常を示すことを見いだした。 しかしながら、上記の実験だけでは、脳内においてTRPV4が脳内温度エネルギーにより活性化しているのか、あるいはその他の内在性リガンドにより活性化しているのかが不明である。TRPV4が脳内温度エネルギーにより活性化していることを示すには、in vivoで脳を冷却し、TRPV4の活性化温度閾値(34℃)以下の環境を作り出した場合に神経興奮性がどのように変化するのかを調べる他はない。そこで、野生型とTRPV4KOマウスの脳内にカニューレを埋め込み、脳内温度を37℃から30℃程度へと冷却したところ、野生型マウスの神経活動は著しい低下を示した。一方、TRPV4KOではそのような著しい低下を示さないことが分かった。つまり、正常時にはTRPV4が脳内温度エネルギーを電気信号に変換し、これにより神経活動がポジティブな制御を受けていることがクリアーに証明された。これらの結果は、我々の脳内温度工ネルギーをTRPV4が恒常的に電気信号に変換することで神経興奮性を正常に保っていることを意味している。
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