生命の源でもある生殖細胞では、非常に緻密で複雑な機構を経て発育・成熟することにより、種存続の安全性が確保されている。特に卵子は、精子と異なり限られた数しか回収できない(排卵卵子10~30個/匹)ため、哺乳動物卵子の体外大量獲得技術が確立されれば、これまで卵子研究の限定要因だった"数の問題"を克服でき、多量の卵子を用いた大規模な解析が可能となる。私は、マウス新生仔卵巣から世界初の卵巣由来幹細胞として莢膜幹細胞の単離と分化誘導に成功した。また、莢膜幹細胞の培養系において複数の卵子が卵胞を形成しない裸の状態で生じることに着目し、その卵子を効率よく単離・発育させることにも成功した。その後の解析から、それらの卵子を1匹の雌産仔から1000個以上の質の高い卵子を回収する方法を見いだしただけでなく、それらの卵子と卵巣体細胞による再構築卵巣法を駆使し、MII卵子にまで成熟させることにも成功した。現在は、この卵子を用いて顕微授精を行い、産仔への発生能を解析しているところである。問題点としては、MIIにまで成熟する卵子数が少ないことであるが、ホルモンの投与などにより改善される可能性が高いと考えられ、現在解析中である。また、これら卵子を顆粒膜細胞に包まれていない裸の状態で長期間培養する技術の利点を最大限に発揮するために、いくつかの成長因子や化学物質を培地に添加し、卵子に直接作用させることにより、顆粒膜細胞や莢膜細胞の関与といったノイズを省いた状態で卵子の挙動を解析することも可能となり、実際に卵子の成熟に重要であると考えられている因子が、成熟だけでなく卵子のアポトーシスにも機能している可能性を見いだした。これは、本実験系を駆使したからこそ明らかになってきた知見であり、より詳細な解析により今まで明らかにされてなかった卵子のアポトーシスの新機構にも迫ることができると考えている。
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