研究概要 |
新しい地誌学の創生と地域の人縁生成という課題に対して、昨年度は、多方面からの切り口で、少しでもこうしたテーマへの核心に触れる試行実験を繰り返したと言える。GISによる地図表現の力を地域づくりに見える形でどう貢献するかについては、東大阪市では,同市の市民団体の活動史に関して,関連する諸団体から提供を受けた資料のデータベース化を進めた。この資料は,30年分・1,000冊以上の簿冊から構成されており,地域社会における様々なネットワーク形成の展開とその意義を明らかにしうるものである。また,データベースの活用手法や「見せ方」について関係者が自主的な取り組みを進められるようなサポートも行った。 大阪市阿倍野区にある阿倍野プラザでは宗教者と市民との対話型レクチャー「阿倍野Religion-Cafe」を2009年8月の発足から今日までに計14回開催してきた。それらのうち、「宗教と翻訳言語、および芸術表現」の観点から編纂した冊子を刊行するに至った。地域住民を含む様々な立場の者が集う阿倍野Religion-Cafeで生成する対話は他では得ることのできない知見に満ちており、我々の宗教認識を大きく揺さぶるものとなっている。 同じ大阪市の桜ノ宮に所在した、龍王宮の記憶を記録するプロジェクト」では、在阪済州島出身女性たちの祈りの場であった、この「龍王宮」を対象に、その場所の形成から消滅までの過程を行政文書や地図、空中写真などによって実証する傍ら、龍王宮に通ってきた人々の記憶を収集し、それを映像や文書で記録する作業を行なっている。2011年6月にその成果として、中間報告書・映像集を刊行予定である。 新宮においては、主に在日コリアンの生業と地域形成について、今までまったく明らかにされてこなかった、もうひとつの都市史を記述することに成功した。同時にIターン者が地域にどのような力を与えるかについて、主に表現活動者を中心とした地域での役割について明らかにした。
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