今年度は主として次のような研究を行った。 (1)タイの主要鉛鉱山の調査。その結果、Song Toh鉱山産鉛の同位体比は他のタイの鉱山とは一致せず、日本の戦国時代の一部鉛がSong Toh鉱山産鉛と一致したため、この時期に日本へ運ばれた東南アジアの鉛がSong Toh鉱山産である可能性がより高くなった。(2)カンボジアのプンスナイ遺跡の調査。この遺跡は紀元前後の遺跡であり、出土した約80点の資料を調査した。これら資料にもタイ国ソントー鉱山の影響があることを確認した。(3)中国寧波と北京の古銭や梵鐘の調査。平安~鎌倉時代に日本へ流入した古銭のルーツを探るために幾つかの中国出土のコイン資料を採取して、鉛同位体比を測定した。その結果、中国産の古銭の鉛同位体比は日本で見つかるコインとほぼ類似した値を示した。(4)フィリピン・マニラ博物館にある大航海時代の沈没船の積み荷の調査。東アジアで流通した鉛や青銅金属に関して材料を調査した。その結果、スペイン船で日本へ運ばれた鉛やスズのインゴットが東南アジア産である可能性が高くなった。(5)石見鉱山の製錬遺跡の調査、および新潟県佐渡金山の鉛製インゴット資料の調査。日本の戦国時代末期に、銀山で利用された鉛には外国産の鉛は今のところ、検出されず、鉄砲玉と銀精錬のための鉛とは産地の系統が異なっているように見える。(6)沖縄の琉球ガラスの産地の調査。一般論としては対岸の中国からと考えられるが、当時の琉球は東南アジアから北東アジアにかけて広い範囲で貿易していた。調査の結果、ガラスビーズの鉛同位体比はかなりバラツキ、華南地方の鉛ガラスが主ではあるが、さらに広い範囲からビーズそのものを集めていた可能性が高い。
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