研究概要 |
国際微生物センサスの一環として、赤道域から南大洋に至る海洋表層の微生物群集を比較した454タグ配列解析では、学術研究船白鳳丸航海における南太平洋南北縦断観測(10°N-65°S,170°W)によって採集された赤道、亜熱帯(20°S)、亜寒帯(50°S)、南大洋(65°S)の4点の各試料につき約12000から34000リードの配列情報が得られた。ACE種数推定法によるカットオフ3%のOTU数は、細菌で約1000-3200、古細菌で約420-530であった。多様性の南北差は特に細菌群集で顕著に見られ、推定OTU数は赤道域で最大、南大洋で最小であった。また、BrdUをトレーサーとして添加し、全微生物群集のうち活発に増殖する集団の解析も行った。細菌群集におけるBrdU標識画分の推定種数は約650-1200であり、多くの稀少種が休眠のような状態にあるわけではなく活性に増殖していることが示された。「微生物はその分散性の高さゆえに、様々な時空間において常に多様性の高い遺伝子プールが維持されており、環境条件の変化に応じて、ある時点や場所の環境に適応した種が卓越する」という仮説が長らく信じられてきているが、これを議論するための十分に実証的なデータはない。稀少細菌種を含む究極的とも言える微生物多様性解析の結果は、環境DNAの採集と同時に得られる様々な環境データと合わせて解析することにより、生態系における微生物多様性のもつ意義、頑強性や復元性への寄与、遺伝子プールとしての役割について新しいモデルを提示するための実証研究となる。
|