本研究では、極限環境耐性動物として初めてゲノム解析が行われたヨコヅナクマムシを用いて、クマムシの極限耐性機構の解明を目的とする。本年度は単為生殖を行う本種における変異体解析手法の確立を目的とし、当研究で自然突然変異として新規に単離されたアルビノ変異体を用いて、網羅的な配列解析による変異遺伝子の特定を試みるとともに、同変異体の極限環境耐性について解析を進めた。まず、耐性能力については、アルビノ変異体は野生型と同様の乾燥耐性能力を持つ一方で、ガンマ線・紫外線照射に対しては野生型よりも感受性が高く、より低い線量で生存率が著しく低下することが分かった。野生型とアルビノ変異体の粗抽出液について吸収スペクトルを調べた結果、野生型の方がUV領域での吸収が高かったことから、ヨコヅナクマムシの持つ色素がUV吸収性を持ち、これが紫外線に対する耐性に違いを生み出している可能性が考えられた。ガンマ線については透過力が非常に高いことから、色素による吸収は考えにくく、ガンマ線照射によって発生したラジカルや酸化ストレスへの抵抗性が異なっている可能性を想定している。変異遺伝子の同定については、野生型のゲノム配列がドラフトの段階であることを鑑みて、全ゲノム比較ではなく、発現している遺伝子に着目したトランスクリプトーム比較を行った。具体的には、野生型およびアルビの変異体の成体各500匹から抽出したRNAについて、イルミナGAIIを用いてそれぞれ約4Gbの配列解読を行った。得られた配列をドラフトゲノムにマップした結果を基に、野生型およびアルビノ変異体から多数のSNPを検出した。現在、フィルタリングによる選別およびサンガー法による変異体ゲノム配列の確認を行い、変異遺伝子の絞り込みを進めている。
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