本研究では、極限環境耐性動物として初めてゲノム解析が行われたヨコヅナクマムシを用いて、クマムシの極限耐性機構の解明を目的として変異体解析と化学物質による機能阻害実験を行う。本年度は、前年度に自然突然変異として単離され、放射線・紫外線耐性能が低下したヨコヅナクマムシのアルビノ変異体について、その変異遺伝子の探索と色素実体の解析を行った。昨年度に行った野生型と変異体のmRNA-seqデータを元に変異を探索し、多数の候補の中から変異している可能性の高い箇所を選定し、該当部位をSanger法で再解析することで変異箇所を複数特定した。その結果、変異が確認された遺伝子の中に、色素合成経路で働くことが知られている遺伝子が1つ含まれていることが判明した。変異部位は機能ドメインには含まれていなかったが、立体構造を構築する上で重要と考えられる領域にあり、立体構造変化による機能喪失型の変異と考えられた。この結果をもとに野生型に含まれる色素の種類を推定し、野生型個体から色素類を抽出し性状を解析した結果、当該遺伝子の下流で合成される色素の性質と一致したことから、この遺伝子変異がアルビノ形質の原因遺伝子と考えられた。また、ヨコヅナクマムシは細胞あたりのDNA量と解読したゲノム配列との比較から2nの核相を持つとかんがえられるが、アルビノ変異体の配列解析において同変異部位のヘテロ接合性は検出されず、ホモ接合体と考えられた。このことからヨコヅナクマムシは単一個体から無交配で産卵可能であるが、生殖細胞形成時に減数分裂を伴っている可能性が高いと考えられる。
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