研究課題
クマムシは外界の乾燥に応じて脱水し、無代謝の乾眠状態となって乾燥に耐える。乾眠状態のクマムシは様々な極限環境に耐性を示すが、その分子メカニズムは全くといってよいほど明らかにされていない。乾眠能力の高い種の多くは単為生殖であり連鎖解析を用いた変異体解析が困難であった。本研究課題では、次世代シーケンサーを利用することで変異体解析を単為生殖種にも拡大適用し、高い耐性能を持つヨコヅナクマムシの耐性機構に迫る。これまでに紫外線・ガンマ線耐性の低下した変異体としてアルビノ変異体を単離し、色素関連代謝産物がガンマ線や紫外線耐性に寄与することを明らかにした。変異体の網羅的な配列解読により変異遺伝子を複数特定した結果、そのうちの1つは既知の色素合成経路で働く遺伝子であった。そこで、野生型ヨコヅナクマムシから色素の精製を進めた結果、分離過程での挙動や精製品の吸光スペクトルおよびpHへの応答性から、クマムシの色素は変異遺伝子から予想された色素グループに含まれると考えて矛盾しないことがわかった。そこで、同色素グループについて入手可能な各種の色素標品を集めるとともに、標品が入手できないものについては他種動物より色素を抽出し、ヨコヅナクマムシの色素と吸光スペクトルおよびTLCでの移動度を比較した。現在までのところ、一致する既知の色素は見出されておらず、クマムシの色素は固有の修飾を受けている可能性が考えられる。現在、これらの色素がガンマ線耐性や紫外線耐性に与える影響の解析を進めている。
3: やや遅れている
色素の同定については、既知色素と一致しなかったため完全に特定するには及ばなかったが、色素グループを同定し、かつクマムシ独自の色素修飾の存在を提起した。変異体解析と並行して、乾眠に影響を与える化合物の探索を行ったが、これまでのところ乾眠を阻害する薬剤の単離には至らなかった。並行して解析を進めていたトランスクリプトーム解析の結果からヨコヅナクマムシでは乾燥に応答して誘導される遺伝子が極めて限られていることが明らかとなり、薬剤によって乾燥時の応答に干渉して乾眠を阻害するのは困難な動物であった可能性がある。
本研究により、ヨコヅナクマムシの色素の単離方法および性状が明らかになり、単離した色素を用いて、DNAやタンパク質などの生体分子の放射線からの保護活性を解析できるようになった。放射線防護に寄与する低分子化合物の同定につながることが期待される。また、乾眠に必要な因子は常時準備されていることが推定されたことから、阻害化合物のスクリーニングの代替として、常時発現しているクマムシ遺伝子群を遺伝子資源として異種培養細胞に導入し耐性向上に寄与する遺伝子を選別する計画をたて、現在遂行中である。
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PLoS ONE
巻: 7 ページ: e44209
10.1371/journal.pone.0044209
生物科学
巻: 63 ページ: 205-213