本年度(初年度)は、新領域の課題を掘り起こしてゆくための環境整備に加えて、基礎資料収集を活発に行った。4月にロンドンにおいて開催した東大フォーラムでは平和に貢献するビジネスの実態に迫るために、学術界のみならず企業や国際機関ならびにNGOの積極的な参加を得て、研究成果の発信・蓄積のみならず研究ネットワークの拡大を達成することができた。その他にも多くのシンポジウム(延べ7回、参加者100名から200名規模のもの)やセミナー(延べ27回、参加者10名~30名規模のもの)を開催してきたが、いずれも本研究課題を多角的かつ複眼的観点から分析する上で必須の専門分野や論点に係るものであった。とりわけ、当初より初年度の主要課題として想定されていた平和に関するビジネスの業態調査について大きな成果をあげることができた。前出の東大フォーラムにおいては地雷除去機やマラリアネットの開発に従事する企業の業務やNGOの働きかけについて当事者からの意見を吸い上げることに成功し、また別のセミナーにおいてはBOP(貧困ビジネス)についての具体的取り組みを行う社会起業家の報告や議論を通じて、平和に関するビジネスの具体像とその幅や深さについて枠組的な把握に努めた。また、年度末に開催した人の移動に関するシンポジウムにおいては人身取引や違法出稼ぎ労働、EPAや難民流出などに介在する中間者(ブローカー)などについての知見も共有することができた。この中に書ききれない多くの業績は、いずれもこれまで断片的かつ分散的にしか把握できていなかった平和ビジネスの全体像構築に成功したと言える。こうして、計画通りに次年度(2010年度)はこれらビジネスが社会にどのように影響するのかを調査することに重点を移行する予定である。
|