研究概要 |
本研究の目的は,地球惑星科学的に重要な分子種(水,二酸化炭素,ホルムアルデヒド,メタノール等)の生成・同位体分別に関わる,氷表面原子トンネル反応の反応経路,反応速度定数およびその表面温度・組成依存性を実験的に調べることである.平成21年度は,上記反応に至る表面素過程として最も基本的な,氷表面における水素原子の吸着,拡散,水素分子生成と生成時のスピン温度について実験を行った.原子線をフラックス測定の後氷表面に照射し,吸着水素原子をレーザーによる光刺激脱離と共鳴多光子イオン化法を用いて検出し,水素原子の表面数密度とその時間変化を測定した.その結果,水素原子の氷表面(多結晶氷,アモルファス氷)への吸着係数とその温度依存性,および水素原子の氷表面拡散の活性化エネルギーを求めることができた.吸着係数は15~20Kで急激に下がり,8Kのときを1としたとき20Kでは0.1となった.拡散の活性化エネルギーはアモルファス氷では少なくとも2成分となり,低い方で20meV程度,高い法で50meV程度と見積もられた.また多結晶氷の場合,低い方のみが観測された.分子雲中の氷星間塵に水素原子が吸着した場合,そのほとんどは素早い拡散の後反応に費やされるであろうことが示唆された.また,スピン温度に関してはH21年度22月現在まだ十分な結果が得られていない.
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