研究概要 |
ホルムアルデヒドの重水素濃集についてより詳細な実験を行い,昨年度までに得られた実験結果とあわせてホルムアルデヒド重水素体生成プロセスを決定する要因(活性化エネルギー,表面組成,温度,反応系の実効質量)を吟味した.ホルムアルデヒドでは,ホルムアルデヒド中のH原子が表面上の自由D原子と反応するH-D置換,およびその逆のプロセスD-H置換反応がおこる.同時にH,D付加トンネル反応による重水素体メタノール生成のチャンネルもあるため,星間塵表面で標準体ホルムアルデヒドから出発した場合,重水素体の生成比率はH,D原子比および各反応の反応効率による.反応性を支配する要因を比較検討した結果,反応速度はトンネル反応系の実効質量に強く依存し,分子雲環境ではD_2CO,CHD_2OHが卓越する結果となることが分かった.これは豊富なD_2COの存在を報告した,ごく最近の分子雲の天文観測と整合する. 振動内部エネルギーを持たない低温OHラジカルとCOの氷表面反応により,CO_2が生成することがわかった.これまで,OH+CO反応によるCO_2生成にはOHが振動励起しているか,大きな並進エネルギーを持つこと(つまり,CO_2生成には紫外線もしくは宇宙線の存在)が必要と思われていたが,低温で振動基底状態のOHとの反応でもCO_2が生成することが明らかになった.この反応は放射場の弱い分子雲コアにおけるCO_2生成の重要なプロセスと考えられる.また,同じ反応実験から炭酸:H_2CO_3の生成が同時に確認され,その生成量はCO_2の40-70%に上る.炭酸は分子雲で観測されていないが,本研究からその存在が示唆された.
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