アルミニウムは、金属材料や触媒材料など様々な工業分野で利用されており、我々の生活になくてはならない元素のうちの一つである。また、地殻埋蔵量が多く安価なため、希少金属代替元素としても注目を集めている。しかしながら、固体状態で均一かつ安定なアルミニウム構造を設計・構築できないことが、その応用分野拡大の際の足枷となっている。本年度は、昨年度合成に成功した[(n-C_4H_9)_4N]_4[α-PW_<11>{Al(OH_2)}-O_<39>](TBA-1)について、単結晶X線構造解析および密度汎関数(DFT)法からその構造を決定した。その結果、本化合物中の単核アルミニウムサイトはポリ酸塩骨格中のリン原子側に引き寄せられたユニークな構造を構築しており、アルミニウムイオンに配位した水分子の2個のプロトンは塩基の添加により中和できることも明らかにした。さらに、TBA-1を分子担体として用い、アルゴン雰囲気下でCp_2Zr(OSO_2CF_3)_2・(THF)(Cp=C_5H_5^-)と反応させることで、新しいジルコノセン誘導体[(n-C_4H_9)_4N]_6[α-PW_<11>Al(OH)O_<39>ZrCp_2]_2の合成・構造解析に成功した。この化合物は、2個のポリオキソアニオンユニット間に2本のAl-O-Zr結合と2本のW-O-Zr結合が形成した二量体構造を構築していた。本化合物は、ポリ酸塩骨格中のアルミニウムサイトに有機金属種が担持した世界初の化合物と言える。一方、我々は、Cs_4[α-PW_<11>{Al(OH_2)}O_<39>](Cs-1)、 K_6Na[(A-PW_9O_<34>)_2{W(OH)(OH_2)}{Al(OH)(OH_2)}{Al_2(μ-OH)_2(OH_2)_4}]・19H_2O(KNa-2)およびK_9[PW_<17>{Al-(OH_2)}O_<61>]・12H_2O(K-3)を触媒として用い、水中でのアルコールの酸素酸化を行った。その結果、いずれのアルミニウム化合物も高選択的に酸化生成物を生成したが、中でも単核アルミニウムサイトを有するCs-1が最も高いターンオーバー数を示すことを確認した。また、反応温度95℃で288時間加熱撹拌後もポリオキソアニオン1の構造は保持されており、再利用も可能であることを確認した。本触媒反応結果より、アルミニウムサイトの部分構造が触媒活性に著しい影響を与えており、分子構造の精密制御によって優れた触媒材料の設計・構築が可能であることが示唆された。
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