当初の研究計画では、人工的に複数のVO_2コンパレータを並べマルチネットワーク型確率共鳴素子を構築する予定であったが、初年度・前年度の概究で、閾値電圧を超えた時に発生する金属相が数マイクロメートルサイズの幅をもつマルチパスとして自然形成されていることが分かり、単一VO_2薄膜がマルチネットワーク型の確率共鳴特性を示すことが分かってきた。この結果は、人工的にVO_2コンパレータを並べることなく入出力信号相関比が大きくなることを意味しており、非常に有難い特性である。本年度は、これらの成果を踏まえて、応用をめざした。研究実施内容は、(1)VO_2コンパレータの周波数特性を調べるとともに、ノイズの色による確率共鳴特性の変化をシミュレーションした。また、(2)ノイズ源となりうるVO_2の発振現象について調べた。(1)について、10hz~1KHzのサイン波を入れVO_2の非線形電気応答コンパレータ動作を確認した。音声信号へ適応するには、可視聴帯の高周波領域20kHzにまで動作する必要がある。また、確率共鳴でのノイズの色は、入出力相関比を左右させる重要な要素であるため、ノイズの色を変えた場合の相関比変化を計算シミュレーションした。その結果、1/fノイズを用いた場合、大きなノイズ下でも高い相関比が保たれ、確率共鳴特性が向上することが分かった。(2)について、DCバイアスによりVO_2薄膜の金属-絶縁体転移が交互に繰り返される発振現象を起こすには、VO_2試料に適切な付加抵抗を直列配列する必要があり、付加抵抗値は、発振規象の効率(=発信の振幅幅/DCバイアス電圧値)に関わる重要なパラメータである。このことから、高効率で動作する付加抵抗値の範囲を詳細に調べた。結果として、最適な付加抵抗値により、30%以上の効率でVO_2が発振することを確認し、ノイズ源として有効であること示した。
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