研究概要 |
光化学系タンパク質複合体が光環境変化に適応するための機構の一つとして,ステート遷移が知られている.これまでに,我々はステート遷移の実態を明らかにするため,単細胞緑藻クラミドモナスを用いて,光化学系Iタンパク質複合体(PSI)の精製と生化学的解析を行い,LHCII (CP26, CP29, LHCII type II)がステート2状態でPSIに結合していることなどを明らかにしてきた.本研究では,より無傷のタンパク質超複合体を得るため,界面活性剤トリデシルマルトシドを使い,ショ糖密度勾配遠心法による精製を試みた.その結果,得られた精製産物には,これまでのPSI, LHCI, LHCIIに加えて,Cyt b_6f, FNR,そしてPGRL1が含まれていることがウェスタン解析およびMS/MS解析により明らかになった.ゲルろ過クロマトグラフィーと高塩処理による複合体分離解析によって,得られた精製産物が一つの巨大タンパク質超複合体であることが示唆された.野生型の他,3種類の変異体(PSI-His変異体,PSI欠損株,Cyt b_6f欠損株)の解析も,野生型での巨大タンパク質超複合体の存在を支持した.さらに,分光学的手法により,単離したPSIタンパク質超複合体はプラストシアニン、フェレドキシンの存在下でPSIの光励起によりルーメン側及びストロマ側の電子伝達活性を示し、サイクリック電子伝達活性を保持していることが確認された。これらの結果から、ステート遷移に伴うPSI-Cytb6f-FNRによる過渡的超複合体の形成がサイクリック電子伝達を制御していることが示唆された。
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